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ドレス作りに夢中なので婚約破棄してください!  作者: 和泉


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第7話 ドレス店(2)

「ユーリ、もう少しギャザーを多めに」

「はい店長」

「サリー! それ、色あっているか?」

「ええっ? あっ! すみません」

 どんどん指示を出すマティの姿をソフィアは入り口の扉から静かに眺めた。

 みんな忙しそうで、声が掛けづらい。

 ソフィアに気づいたマティは入り口までソフィアを迎えに来てくれた。


「髪……自分で?」

 ソフィアのポニーテールにスルッと触れながらマティが尋ねる。


「邪魔にならないようにと思って……ダメでしたか?」

「いや、可愛いよ」

 かっ、可愛い? 私が?

 言われ慣れていない言葉にソフィアは真っ赤になる。


「ユーリ!」

「はぁい」

 さっき布を運んでいた母くらいの年齢の女性はお針子リーダーのユーリ。

 住み込みもしているので困ったら何でも聞いてと優しく微笑むユーリにソフィアはお願いしますと頭を下げた。


「店長の彼女?」

「ちっ、違っ、先代の初恋相手のお孫さんだ」

 先代に頼まれたのだとマティは慌てて言い訳する。

「初恋?」

「同級生でね、先代の片想い。婚約者がいたからね」

 詳しくは知らないけれどと苦笑するマティの言葉、『婚約者』にソフィアの胸はギュッと締め付けられた。

 目を伏せ少し俯いたソフィアは、マティに引き寄せられる。


「ごめん、無神経だった。泣くな」

「泣いていません〜〜」

 父にも抱きしめられた記憶がないソフィアが真っ赤な顔で答えると、慌ててマティはソフィアを解放した。

 二人の様子にユーリはニヤニヤ笑う。


「何か事情がありそうだけど、付き合っちゃえばいいのに」

 ユーリの言葉にソフィアは悲しそうな顔で微笑みながらスカートをギュッと握りしめた。


 自分はニコラスの婚約者。

 しゃべらなくても、目を合わせなくても、嫌われていても、彼に好きな人がいても。

 自分には選択権はない。

 母に教わったが、女性側からは婚約の申し込みも、破棄することもできないそうだ。

 それでもなんとかするから大丈夫よと母は言ってくれたけれど。


「じゃ、ユーリ任せたよ」

「はぁい、店長。ソフィアにはまず布の種類を教えるわね」

 いろいろな種類と色の生地が並んだ倉庫で、実物を触らせながらユーリは丁寧に教えてくれた。

 ブロード、シーチング、チュール、ジョーゼット、サテン、カツラギ。

 こんなに種類があるなんて知らなかった。

 ピンクといっても薄い色、オレンジに近い色、赤に近い色もある。


「ユーリさん、この布もらっていいですか?」

 ゴミ箱に入ったいろいろな布の切れ端をソフィアが指差すと、ユーリは「いいわよ」と答えた。


「あ、でもこれだけ気をつけて。割れたビーズの破片もたまに入っているの。怪我をするかもしれないから、手を入れる時はよく見てね」

「はい、気をつけます」

 ソフィアは布を少しずつ切り取り部屋に持って帰った。

 布をノートに貼り、名前を書き込む。

 光沢がある、片方に伸びる、ハリがある、すぐシワになるという簡単な特徴も布の横に書き添えた。


「……あれ? これはサテン。こっちは……?」

 似ている布があり、色違いなのか種類が違うのかわからない。


 翌日ソフィアが尋ねると、ユーリはバックサテンだと教えてくれた。

 生地の裏側がサテンの織り方になっている生地だと聞いたソフィアは急いでメモを取る。


「ユーリさん、この数字は何ですか?」

「これはデニールといって……」

 1デニールは1グラム。

 糸の太さを表しているそうだ。

 今まで生地を買う時は触って気に入ったものを購入していたので、糸の太さや種類なんて気にしたことがなかった。


「これ、名前覚えている?」

「ツイル生地です」

 斜めに線が走っているように見え、糸も細いのでこれはカツラギではない。


「これは?」

「オーガンジーです」

 あれ? 間違えた?

 ユーリが驚いているのはなぜ?


「ソフィア! 30Ⅾシフォン、色は……」

「どうぞ」

 ドレスを見ながら色を悩んでいるマティに、ソフィアは見本を差し出した。


 まだ色を覚えきれていないので、自分のために作った色見本。

 シフォン、ジョーゼット、サテンなど、生地ごとにまとめていつでも確認できるようにエプロンのポケットに入れている。


「……これは?」

「ごみ箱の生地から少しずつ集めたものです」

 生地は勝手に切り取っていないですとソフィアは慌てて答えた。


「いや、そうではなくて。どうしてこれを作ろうと思ったの?」

「まだ、微妙な色の違いがわからなくて。シェルピンクとベビーピンクとか……」

 もしかして色もわからないのと呆れられた?

 そのくらいあたりまえだろって言われたらどうしよう。

 すみませんと謝るソフィアの頭をマティは撫でてくれた。


「すごくいいよ。ありがとう」

 あれ? 呆れられてない……?

 優しく微笑んでくれるマティと、すごいわと言ってくれるユーリにソフィアはホッと胸を撫で下ろした。


 ソフィアの最初の仕事は倉庫から指定された布を持ってくることだった。

 丸まった布は重く、そして長いので運ぶのが大変だった。

 その次はビーズやスパンコールなどの飾りをつける仕事、そしてリボンなどの手縫いできる装飾品を作らせてもらえるようになった。


 リボンひとつ作る作業でも、美しく見えるバランスや茶会向き・夜会向き、リボンに向いていない布があることなど多くのことを学ぶことができた。

 毎日が本当に楽しい。


 充実した時間はあっという間に過ぎ、ソフィアが働かせてもらうようになってから五ヶ月が過ぎた――。

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