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ドレス作りに夢中なので婚約破棄してください!  作者: 和泉


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第34話 仕返し(5)

 いるはずがないのに黒髪のルーカスの姿が見える。


「……ルカ様?」

 とうとう幻覚まで見え始めてしまった。

 だいぶ疲れているかもしれない。


「ソフィー!」

 ルーカスはソフィアをギュッと抱きしめる。


「……えっ? あれっ? ルカ様? 本物?」

「ソフィー、会いたかったです」

 耳元で囁く声はやっぱりルーカスの声。

 苦しいくらい抱きしめられたソフィアは、驚きすぎて固まった。


「えっ、待って。ソフィアの彼?」

「ねー、キャシーの旦那よりイケメンでしょー」

 サリーがこないだ言ったじゃんと答えると、別の部屋にいたお針子たちもルーカスを見るために扉へ押し寄せた。


「お前たち、片付けは?」

 マティが扉の前に立ち塞がる。


「店長〜、ソフィアの彼が見たい〜」

「はい、片付け! 片付け!」

 ユーリがお針子たちを追い返す。


「一時間くらいなら打ち合わせ室を使って良いぞ。ついでに掃除もしとけよ」

「はい、マティさん。ありがとうございます」

 ここが作業場だと忘れそうなくらい優雅な雰囲気でエスコートされるソフィア。


「なんか一瞬パーティ会場かと思ったわ」

 ベスが笑うと、私も思ったとアデラも笑う。

 打ち合わせ室に入った瞬間、ルーカスはソフィアに口づけた。


「……ル……」

 名前を呼ぶ事もできない突然の口づけにソフィアの力が抜ける。


「っと」

 ルーカスは慌てて支えるともう一度チュッと口づけ、ようやくソフィアを椅子に座らせた。


「ずっと来られなくてすみません」

 ルーカスは来ることができなかった理由を話した。ずっとオリビアに付き纏われていたこと、購入した物は全て個数までチェックされ同じ数をオリビアが買っていたことも。


「えっ、怖い」

 怯えるソフィアの手をルーカスは握った。

 ソフィアが見つからないように、ここへ近づくことも花を贈ることもできなかった。シュークリーム屋だけはソフィアのことを考えてくれると思い、なんとか金曜日に通ったが。


「会いたいのに会えなかった……」

 恋人繋ぎは口づけの合図。


「もう大丈……」

 もう大丈夫なのか聞きたいのに、口を塞がれ伝えられない。

 ルーカスは両親と兄達のお陰でオリビアは三ヶ月領地へ帰ったと伝えた。


「ソフィー、好きです」

 不安にさせてごめんとルーカスは口づけの間に囁く。


「好きだ」

 ルーカスが好きだと言うだけで、あんなに寂しかった気持ちが一気になくなる。

 ソフィアはルーカスの手をギュッと握り返すと切なそうに微笑んだ。


    ◇


「蝶ネクタイはもう少し大きい方がいいわね」

 マネキンに着せたルーカスのタキシードに蝶ネクタイを合わせながらユーリが言うと、アデラもベスも頷いた。


 秘蔵の真っ黒な生地。衿が尖ったピークドラペルは洗練された大人の雰囲気。

 U字のカマーバンド調ベストはソフィアのドレスの裾と同じ青。

 中の白いシャツはボタンが見えない比翼仕立て。


「完璧だわ」

 デザインはこれ以上ないくらい良い組み合わせだとユーリが唸る。


「あとは着こなせるかどうかだね〜」

 もう一回り大きい蝶ネクタイのサンプルをマネキンにつけると、ビシッとイメージが固まった気がした。


「……いいんじゃない?」

「もちろん青よね」

 アデラが型紙を取り出しソフィアに手渡す。

 がんばって! とニヤニヤ笑うお姉様達にソフィアは「はい」と返事をした。


「カフスリンクは黒曜石だな」

 このタキシードに似合うのは黒曜石。

 ソフィアの父には購入許可をもらっている。


「相手は公爵子息。国で一番の宝石商ウィルズに頼もう」

 ウィルズ宝石商は王室御用達。紹介状がないと店内に入ることもできない高級店だ。もちろんソフィアには全く縁のない店だけれど。


「ウィルズって、この前ウェディングドレスの注文に来ていたよね。金髪イケメンが」

 さりげなくイケメンチェックしているベスをアデラが笑う。


「あそこは信頼できる」

 変な物は売りつけられないから大丈夫だと言うマティにソフィアはお願いしますとお辞儀した。



 九月にはマーメイドドレスも完成間近になった。あとは試着をして微調整のみ。

 ソフィアはタキシードとドレスをマネキンに着せて並べてみた。さりげなくペアな感じが少し恥ずかしい。

 自分で作ったドレスとタキシードなんて夢のようだ。たくさん教えてもらい、たくさん手伝ってもらったけれど。独学で作っていた服とは全然違う。


 やっぱりドレスクチュリエールになりたい。

 マティのように素敵なデザインを考え、魔法使いのように布を使い、お針子の先輩たちのように綺麗に縫い、繊細な刺繍をして、ドレスを着たみんなに喜んでもらいたい。


「ソフィア、電気消すぞ。部屋に戻れ」

「はぁい、マティさん」

「おやすみ」

「おやすみなさい」

 ソフィアが部屋に戻ったことを確認したマティはポケットからケースを取り出した。


 ケースにたくさん入っているのは小さな黒曜石。国で一番の宝石商ウィルズに頼んだ黒曜石のカフスリンクと同じ石のカケラだ。

 これはクズ石と呼ばれ、宝石商では商品にならない石。

 ウィルズ公爵子息はそのクズ石をドレスに利用できるように加工してくれた。


 マティはバランスを見ながらタキシードとドレスにそれぞれ縫い付けていく。

 タキシードは左襟の胸元と蝶ネクタイに。

 ドレスは下の方の青い布に。

 ソフィアが歩くと足下の黒曜石が光り、ルーカスが歩けば胸元が光るだろう。


 美男美女のお似合いな二人。

 パーティ会場の二人を勝手に想像したマティは縫いつけ終わったドレスを見ながら切なそうに微笑んだ。

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