第3話 将来の夢(3)
あぁ、早く帰りたい!
今日はミシンでパフスリーブを作る予定だ。
ソフィアは帰りの馬車の中で服のデザインを描いたノートを見ながらあれこれ考えていた。
幼い頃、クチュリエールにはなれないのだと母から言われた時はショックだった。
でも、自分のためだったらワンピースだってドレスだって何でも作っても良いのではないかと気づいてからはだいぶ心が軽くなった。
本当は、今でもクチュリエールになりたいと思う気持ちは変わっていないけれど……。
「裁縫ばかりしていてはダメ。勉強ができなかったら裁縫セットは没収です!」
母に裁縫セットを買ってもらった初等科から、ずっと必死に勉強している。
授業は前の方で先生の話をよく聞き、休み時間に宿題を終わらせ、昼休みに翌日の予習。
黒板の字を見逃さないように眼鏡も買ってもらった。
ふわふわで広がる髪は勉強の邪魔にならないように縛り、前髪も伸ばして一緒に縛った。
オシャレよりも機能重視の自分で作ったシンプルな服を着ていくことだけが唯一の楽しみだ。
今年のテストもなんとか五番が取れたから裁縫セットは没収されない!
エントランスホールで待ち構える母に成績表を手渡すと、結果を見た母はふふふと笑った。
「あら残念。今年も裁縫セットが没収できなかったわ」
「絶対没収させないから!」
ソフィアも笑いながら部屋に駆け込む。このやり取りは毎年恒例だ。
長期連休はミシンでワンピースを縫い、ドレスも作る予定だ。
他にもたくさん作りたい物がある。
だが、楽しい時間はあっという間に過ぎ去り、すぐに高等科の入学式の日に。
ソフィアはカレンダーを見ながら、まだまだ作りたい物があったのになと溜息をついた。
高等科のクラスは中等科よりもさらに人が減り、平民出身の子はほとんどいなくなってしまった。
彼らは働かなくてはならないので学園へ通うことが難しいからだ。
そんな中、やってきた高等科からの新入生。
「オリビア・ホートンです。よろしくお願いしますぅ」
ストレートの金髪をなびかせながら、ピンクのフリフリドレスに身を包んだ伯爵令嬢オリビアが教室の前で挨拶をする。
綺麗な金髪、ぱっちりとした青眼。そしてピンクのドレスにかわいらしい声。
「昔、王都に住んでいて入学説明会にも参加したのに、親の都合で領地へ戻ったので初等科と中等科はここに通えなくて……。でも、また会えてうれしいですぅ! 仲良くしてくださぁい!」
少し寂しそうな顔をし、男たちの心を鷲掴みにしたあとの笑顔。
その圧巻の演技にソフィアは驚いた。
フリフリドレスは可愛いけれど、中身は衝撃的!
「入学説明会もピンクのドレスだったの。私、ピンクが大好きで」
髪がふわふわでピンクの花柄ドレスだったけど覚えていないよね? とオリビアが笑う。
その笑顔に顔が緩みっぱなしの男の子たち、そして新入生に興味津々な女の子たちに囲まれているオリビアの所へ行くことなく、ソフィアはいつも通り休み時間に宿題を片付けた。
その日からニコラスとオリビアが一緒にいる姿をよく見るようになった。
「えー、そうなのぉ」
「ホントだって」
教室でもカフェテリアでも二人はいつでも一緒だ。
「おーい、ニコラス、昼飯!」
友人が呼んでも、オリビアと食べるとニコラスは断る。
「ちょっとマズくね?」
友人たちはソフィアを心配したが、ニコラスは忠告も聞かない。
「はい。ニコラス、あーん」
ニコニコとレタスが刺さったフォークを差し出すオリビアと嬉しそうに食べるニコラス。
「婚約者がいる相手にあれはないわ」
「ねぇ、ソフィア。……大丈夫?」
あまりにも非常識なニコラスとオリビアの行動に、アリーナとエイミーがソフィアを心配してくれた。
「あ……、うん。ありがとう」
気にしていないと言えばウソになる。
あれでも一応、婚約者だ。
婚約者らしいことは何一つしていないけれど。
最後に会話したのは初等科。最初の年のテスト結果が発表された頃だ。
「すげぇじゃん」と言って笑ってくれた次の日から、ニコラスは口をきいてくれなくなった。
今十五歳だから八年前だ。
クラスのみんなが「街でデートした」「誕生日にこれをもらった」と嬉しそうに話しているのを聞いて驚いた。ニコラスとデートをしたことは一度もなかったから。
誕生日も何もない。
別に何かプレゼントが欲しいわけではないけれど。
自分からはニコラスの誕生日に文房具を侯爵邸宛に贈っている。
でも、使っている姿は見たことがない。
仲良く話す二人に思わず目がいってしまったソフィアは、オリビアと目が合い慌てて目を逸らす。
「やだぁ。睨まれたぁ」
ニコラス助けて~とオリビアがニコラスに抱きつく。
ソフィアは目が合っただけなのにと苦笑しながら、カバンに荷物をしまった。




