第28話 わからない気持ち(5)
「ルカ様の事は……たぶん、好きだと思います……。でも、」
ソフィアは悩みながら気持ちを打ち明けた。
ルーカスに好意はある。
でもドレスクチュリエールになりたい。
できればチャーチル・ジョンソン・オートクチュールのお店でずっと働きたいが、結婚したらもう働けないのではないかと不安だと。
「以前も言いましたが、ドレスクチュリエールの夢は応援します。お店で働くのも構いません」
ソフィアの手を握るルーカスの手が強くなった。
「その、マティさんが、働くのはダメだと言うかも……と……」
キャシーはまもなく辞めてしまう。結婚したら辞めるのが普通なのかもしれない。
「では、店長が結婚後も働き続けてもいいと言ってくれたら、婚約してくれますか?」
「で、でも……」
マティに求婚されているのに他の男と結婚する女を店に置いていてくれるとは思えない。
「他にも不安がありますか?」
心配そうな顔で覗き込むルーカス。
「……実は、」
ソフィアは、以前マティに求婚されたことがあることをルーカスに話した。こんなことをルーカスに言うのもおかしいとは思うけれど。
「そ……うですか……」
驚いたルーカスが手で口元を押さえる。
「私と婚約はイヤですか?」
「イヤじゃない……です」
ソフィアは真っ赤になった。
ルーカスは入学前の顔合わせでハンカチを貸してくれた男の子。顔も覚えていなかったけれど、ニコラスとの婚約を聞いた時、あの男の子だったら良かったのになと思ったくらいだ。
ルーカスはホッとするとソフィアの手を恋人繋ぎに。ソフィアが俯いた顔を上げると、ルーカスの優しい口づけが降りた。
「店長に私自身が認めてもらえるように頑張ります。ソフィーが働き続けられるようにお願いしてみます」
「わ、私……も、お願いして……みます」
真っ赤な顔で言うソフィアにルーカスはもう一度口づけすると嬉しそうに微笑んだ。
花束を侍女にお願いし、テラスの椅子に座りながら二人で話をする。
ニコラスとのこともあり、弟ロンドは警戒していたがルーカスとすぐに打ち解け、何やら男同士の秘密とまで言い合うほどになった。あまりにもルーカスに懐いたので母に連れ戻されるほどに。
「ルーカスくん、ちょっといいかね?」
今度は父に呼ばれて書斎へ。
二人でゆっくり話せないのを少し寂しく思いながらソフィアはのんびり紅茶を味わった。
「お父様は何て?」
「男同士の秘密」
男性は秘密が多いのねとソフィアが笑う。
「可愛い」
耳元で囁くとソフィアは「反則です!」と真っ赤になった。
ルーカスが帰った後は母から質問の嵐だ。ピンクの薔薇が十二本だと侍女から聞いたそうだ。ソフィアの部屋へ来て、何度も薔薇を数える。
「十二本だわ! 何回数えても!」
本人よりも嬉しそうな母。
「返事はしたの?」
母の質問にソフィアは首を横に振った。
マティにも求婚されている事を母に相談すると「さすが私の娘だわ! 可愛いもの!」と嬉しそうに部屋を出て行ってしまった。
できればアドバイスが欲しかったな……。
ソフィアは困った顔で微笑むと、綺麗な薔薇を見ながら眠りについた。
翌日ソフィアは店へ戻り、またいつもの生活に戻った。
午前はお針子の仕事、午後はタキシードの準備、金曜は勉強だ。
タキシードの色と素材を決めているのだが、なかなか決まらず困っている。ルーカスに似合う色は何色だろうか。
「お待ちしておりました。ウィスロー様」
店長のマティが打ち合わせ室に案内する。ここはルーカスといつも勉強している部屋だ。
ソフィアは誕生日にマティからもらった水色のワンピースに身を包み、髪はハーフアップ。
今日は侯爵令嬢としてドレスのお礼を言うべきだというマティのアドバイスに従った。
「ソフィア・ブライトです。お目にかかれて光栄です」
貴族の令嬢の見本のような礼をするソフィアにウィスロー公爵夫人は微笑んだ。
「会えて嬉しいわ。ルーカスが諦めきれないはずだわ。こんなに美しく成長しているなんて」
「卒業パーティのドレスを作らせていただき、ありがとうございます。お礼にもうかがわずに申し訳ありませんでした」
本来なら挨拶のためにウィスロー公爵邸に行くべきだったが、ソフィアの事情を察して遠慮してくださったのだ。
「素敵なドレスはできそうかしら」
「まだ仮縫いですがとても気に入っています」
ソフィアが微笑むとウィスロー公爵夫人も良かったわと微笑んだ。
「御子息のタキシードですがデザインのご希望は?」
マティの問いにウィスロー公爵夫人は首を横に振った。
「お任せするわ。ペアだと嬉しいけれど、ルーカスの努力次第かしら」
婚約者であればペアだとわかるように同じデザインの特徴を入れることが多い。
だがルーカスとソフィアは婚約していないので、ペアではなくても構わないとウィスロー公爵夫人は言った。
「わかりました。では採寸をさせていただきます。ソフィア」
「はい」
マティがウィスロー公爵夫人と日程の打ち合わせをしている間に、ルーカスは上着を脱いでソフィアの元へ。
お針子最年長アデラに習った通りに採寸しようと思ったが、ルーカスの方が遥かに背が高いので困ってしまった。
「あの、ルカ様、少し屈んでもらっても?」
「届かない?」
少し小さくなるとソフィアが首から腕を測る。ソフィアより背が高い分、腕も長い。一生懸命な姿が可愛いとルーカスは思った。
胴回りは抱きつくような格好。正面から背中に腕を一生懸命伸ばしているソフィア。
このまま抱きしめたい。
背中の幅やウエストから足の長さも測っていくがこんなに緊張する採寸は初めてだった。




