第27話 わからない気持ち(4)
「……母親からの手紙もあるぞ」
差し出された母からの手紙はいつもと同じ花の便箋。
「……誕生日に帰ってきてほしいと書いてあります」
母の手紙は、勉強をがんばったことを褒めてくれる内容から始まり、誕生日は今年も家で過ごすことはできないかというお願いがあった。
「そうだな。誕生日くらいは帰って親に甘えて来い」
「ありがとうございます」
ソフィアはテストの結果と手紙を持って部屋を退室する。
パタンと扉が閉まった後、マティはソファーに座りながら溜息をついた。
三男といっても公爵子息。年齢が近く会話も合うのだろう。見た目も良く、頭も良い。第二王子の側近で将来有望。
やっぱり二十歳は離れすぎか。
結婚したらキャシーのようにソフィアもここを辞めるのだろうな。
マティは切なそうな顔をしながら、ソフィアの父ブライト侯爵へ手紙を書いた。
一月も午前はお針子の仕事、午後は自分のドレス、金曜の夜はルーカスと勉強とソフィアは毎日忙しい日々を過ごした。
二月に入る頃にはソフィアのドレスはベースが完成した状態に。
「いいじゃないか。色もいい。マーメイドのスカートも綺麗だ。装飾は後にして先に男のタキシードに入る。そろそろサイズを測るから呼ぶぞ」
「毎週来ているのに?」
ソフィアが首を傾げると、たまには客として表から入れさせてやれとマティは笑った。
「公爵家三男が卒業パーティのタキシードをジョンソン・オートクチュールで注文するんだぞ」
公爵家も社交界で話題になるし、店の宣伝にもなる。
「連絡すると伝えておいてくれ」
「わかりました」
ソフィアが微笑むとマティはソフィアの頭を優しく撫でた。
「ソフィア、明日の迎えは九時に来るぞ」
明日はソフィアの誕生日。ブライト侯爵邸へ戻る予定だ。
「九時! 早すぎませんか?」
「ご両親は早く会いたいのだろう」
マティはテーブルの上にあった箱をソフィアに開けるように指を指す。
白い箱をそっと開けると、中身は綺麗な水色のワンピースだった。
「一日早いけれど誕生日おめでとう」
「えぇっ!」
マティがデザインし、縫ってくれたワンピースなんて贅沢過ぎる! 箱からそっと出すと、ふわっと軽い生地が揺れた。
「キレイ……」
袖口に向かってフレアに広がる長袖はパゴダスリーブ。スカートの長さは少し長めのメディ丈。綺麗な刺繍が首元を飾る。
「明日はこれを着て行ってくれ。ここの刺繍はキャシーが作った。出会いのきっかけをくれたソフィアへのお礼らしい」
「ありがとうございます、マティさん。あとでキャシーさんにもお礼を言います」
大切にしますとソフィアは微笑んだ。
◇
「……あれって、王子の側近……?」
街で一番有名な生花店で花束を受け取るルーカスの姿を目撃したオリビアは首を傾げながらジッとその姿を眺めた。公爵家で見た目も良いが、残念ながら三男。王子の側近もし、成績も常に一番でカッコいいのに。
そんな彼が花束……? 三男は結婚相手なんていないはずなのに。
学園は休みに入り、またニコラスには会えなくなった。退屈すぎて街へ遊びに来たが、面白いものを見た。相手が誰なのか知りたい。
「あの馬車を追って!」
「は、はい」
花束を持ち馬車に乗り込むルーカスを、オリビアは暇つぶしに追いかけることにした。
「……うそでしょ?」
ルーカスの馬車が入って行ったのは、ブライト侯爵邸。ソフィア・ブライトの家だ。
ありえない! ありえない! ありえない!
ニコラスに婚約破棄されたソフィアが王子の側近と?
もしかしてチャーチル・ジョンソン・オートクチュールでドレスを買ったのも公爵家……?
オリビアはニヤリと笑った。
だったらまたソフィアから奪えばいいわ。そうすれば高級ドレスは私の物。ソフィアに好意があるということは、金髪青眼好き。
同じ容姿なら胸のある私の方がいいはず。
暗くて、ダサくて、つまらないソフィアなんかよりも私の方が可愛いのだから。
三男は残念だけど王子の側近だし、公爵家なら贅沢し放題よね。
新学期が楽しみ。
オリビアは馬車を引き返し、ルーカスが買った花が何だったのか店に尋ねに行った。
◇
「誕生日おめでとうございます」
「ありがとうございます、ルカ様」
庭に案内されたルーカスは、ソフィアに薔薇の花束を手渡すと右手を握り、手の甲に口づけを落とした。
薄いピンクの薔薇は十二本。
「今日は婚約の申し込みに」
薄いピンクの薔薇は『愛しています』。
十二本は『付き合ってください、私の妻になってください』だ。
薔薇十二本には、感謝・誠実・幸福・信頼・希望・愛情・情熱・真実・尊敬・栄光・努力・永遠の十二個を誓いますという意味が込められている。
「……まだ早いでしょうか?」
今年ダメならまた来年の誕生日に申し込みさせてくださいと、ルーカスは困った顔で微笑んだ。




