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ドレス作りに夢中なので婚約破棄してください!  作者: 和泉


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第24話 わからない気持ち(1)

 ルーカスの言ったとおり誰にもドレス店で働いているとバレていなさそうだった。 

 誰も見に来ないし、お店に来られた方からもソフィアの名前は一切出なかった。

 あれ以来、ニコラスとオリビアも来店していない。

 マティが出入り禁止にしたので入れないだけかもしれないが。


 お針子の仕事、ドレスのデザイン、学園の勉強。

 あっという間に六月になり、ソフィアが修行に来てから一年が経った。


「アシンメトリーのマーメイドか。面白いことを考えたな」

「無理でしょうか?」

「いや、いい。斬新だ」

 ソフィアのドレスのデザイン画を楽しそうにマティは眺める。


「色は?」

「下が濃い青で、上は段々薄く水色か白っぽい色にしようかと」

 なるほどと頷くと、マティは背中のイリュージョンレースを指差した。


「作るの大変だぞ」

 王妃の黄色のドレスよりも大変だとマティは笑う。


「まぁ、やってみればいい。アデラにこれを見せて、どのくらいの大きさのイリュージョンレースが必要か計算してもらって、ここにサイズを書き込むんだ」

 例えば……とマティはメジャーを取り出し、ソフィアの腕の長さを測った。サラサラと腕の長さをデザイン画に書き加える。

 どうしよう。このまま測られてしまったら、ウエストやバストのサイズがバレる!


「こんな感じで……どうした?」

「な、なんでもありませんっ」

 お針子最年長のアデラに残りの身体のサイズと布のサイズ計算を手伝ってもらえと言われたソフィアはホッとした。


「……スリーサイズ測ってほしかったか?」

 マティの言葉に真っ赤になったソフィアは全力で首を横に振る。


「ウエストはわかっているぞ。五十八だ」

「な、な、なんで知っているんですか?」

 見れば大体わかるというマティの言葉に、ソフィアは心の中で大絶叫した。



 お針子最年長アデラに習いながらソフィアはイリュージョンレースの製作に入った。

 薄いチュール生地に刺繍をしていく作業だ。

 バランスを考えながら小さな花の刺繍を施していく地味で大変な作業だが、それでもソフィアにとっては楽しい作業だった。


「ねぇ、これつけたら可愛いよ」

「だったらさ、こっちの小粒の方がオススメ」

 ビジューを持ってきてくれたお針子の先輩キャシーとサリー。


「入れすぎはダメ、そうね、背中部分全体で六個くらいかしら」

 アデラは十個も二十個も入れると品がないと言い、ここと、ここと……と、具体的に場所を指示した。

 言われた場所に一つ縫いつけてみると、時々光るビジューが目を引く。


「……キレイ」

『デザインは描くだけだから実現不可能でも自由に描けるのよ。でもそれを形にするのは大変』

 先代夫人に言われた言葉がよくわかる。


 自分のデザイン画はなんとなくイメージだけが書かれていて、刺繍の位置、向き、サイズまで細かく書かれていない。実際に刺繍をしていくと、バランスも考えなくてはいけないし、思ったよりも大きくなってしまったり、隙間が空きすぎてしまったり、考えなくてはならないことが多い。


『作るの大変だぞ』

 マティに大変だと言われたが本当に大変だった。

 ソフィアが刺繍をするのが遅いというのもあるが、薄いチュール生地に刺繍することがまず大変だった。

 引っ張りすぎるとつってしまう。緩すぎると綺麗に見えない。それでも少しずつできあがる事に喜びを感じながらソフィアは刺繍を続けた。



 イリュージョンレースがようやく完成したのは九月の終わりだった。

 次はマーメイドスカートのタイトな部分。

 ここは身体にぴったりでないと美しくないからと何度も型紙が作り直しになった。

 型紙は平面、でもドレスは立体。何度も型紙を作り一番安い布で試しに縫う。細すぎて入らなかった事もあるし、逆にぶかぶかの時もあった。


 納得がいく型紙ができるまでに一ヶ月もかかってしまったが、なんとかタイトな部分が完成。次はスカートの裾のヒラヒラ部分だが、アシンメトリーなのでただ単純に裾を広げればいいわけではない。

 タイトスカートに試しにつけてみたが、全然うまくいかなかった。


「……理想の形にならないです」

 ショボンとしたソフィアはマティに助けを求めた。

 作りかけのうまくいかなかったサンプルを持っていくと、マティは真剣に考えてくれた。


「まず、スタート位置がよくない。もう少し上から斜めに下に」

 マネキンにタイトスカートをはかせ、具体的に布を待ち針で止めてくれる。


「この辺から……」

 マティの手で美しい曲線が描かれていく。

 やっぱりマティは魔法使いだ。

 デザイン画に近い広がりを見せる布に、ソフィアはすごいと呟いた。


「尊敬したか?」

「はい!」

「嫁になるか?」

「えぇっ?」

 どうしてそんな展開に? 真っ赤になって焦るソフィアをマティは笑う。


「……最近、彼は帰るのが遅いな」

「あっ、す、すみません。お店の打ち合わせ室を借りているのに」

「いや、それは構わない」

 スカートに待ち針をつけていたマティは、立ち上がるとソフィアの手を握った。


「少し、彼がうらやましいだけだ。なかなかソフィアが聞きに来ないから触れ合う機会がない」

「マ、マ、マティさんっ?」

 この状況は何? なぜ抱きしめられているの?


「俺も求婚していることを忘れるな」

 きゅ、求婚?

 もしウィスロー公爵に支払ってもらうのが心苦しい状態になったら、俺の嫁になるというのはどうだ? と言われたが、あれはドレス作りをやってみろの応援だと思っていた。

 求婚? 本当に『嫁になるか?』だったってこと?


「マ、マティさんっ、求婚って、」

「俺と結婚すればずっとドレスに囲まれた生活ができる。条件としては悪くないだろう?」

 年齢が上すぎることだけが問題かとマティが自嘲する。


「毎日楽しそうにドレスを作っているソフィアが好きだ」

 覚えておいてくれと囁くと、マティはソフィアをゆっくりと解放した。


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