第22話 ハンカチの男の子(7)
新学期。
ようやく謹慎が解けたニコラスと三カ月ぶりに会えたオリビアは、元気よく抱きついた。
「ニコラス! 会いたかった~、寂しかった~」
「俺も会いたかったよ」
ニコラスはオリビアの腰を引き寄せ、抱きしめ返す。
「あのね、ニコラス聞いて! ソフィアがドレス店にいたのよ!」
ソフィアの名前にニコラスの眉間にシワが寄った。
「それも高級ドレスのチャーチル・ジョンソン・オートクチュール! 相手はわからなかったけれど、男と一緒に店から出てきたのよ!」
ソフィアとは婚約破棄した。
それなのにオリビアとの婚約はダメだと言われ、未だに婚約できていない。
きっとソフィアが邪魔しているのだ。自分は男と一緒のくせに。
「私もドレス欲しい~。チャーチル・ジョンソン・オートクチュールの新作ドレスが欲しい~」
「いや、あそこは紹介状がないと……」
「絶対私に似合うから~! ね、行こう! お店! 行けば入れてくれるって!」
追い返すようなことしないでしょ? と言うオリビアに、ニコラスはわかったと答えた。
学園は行くことを許可されているけれど、土日の外出は禁止。ニコラスが自由に動けるのは平日だけだ。
「今日の帰りに行ってみるか!」
「やった! ニコラス大好き!」
学園の帰り、高級ドレス店チャーチル・ジョンソン・オートクチュールの店の前で、まだ若い二人は何故入れないのかと入口の警備員に詰め寄った。
「えぇー。入りたい~。新作ドレスが見たい~」
思いっきり甘えた声でダダをこねるオリビアに警備員はダメだと首を横に振る。
「紹介状または会員証をお持ちでしょうか?」
「ソフィアよ! ソフィア・ブライト! ソフィアの紹介よ」
「おい、オリビア!」
「私たち、ソフィアの知人なの。この店に来ているでしょ、ウェーブがかかった金髪の」
オリビアが容姿を伝えると、本当に知人だと思った警備員は仕方なくニコラスとオリビアを店の中へ入れる。
「おい、オリビア」
「いいじゃない。知人なのは噓じゃないわ。わぁ! 見て、ニコラス! これ綺麗! 私に似合いそうじゃない?」
はしゃぐオリビアの後ろで値段を聞いたニコラスは驚いた。
ソフィアはこんな高いドレスを買ってもらっているってことか。
贅沢三昧かよ、あの女。
ニコラスはギュッと手を握る。
「ねぇ、ニコラス! ドレス買って! これ絶対に私に似合うわ!」
「い、いや、ちょっと、買うのは……」
「ソフィアは買ってもらったのよ! 私だってほしい!」
「いや、さすがに……」
「なんで? 綺麗な私が見たいでしょ? ねぇ、買って!」
警備員は他の客の迷惑になるのでお静かにとニコラスにそっと声をかけた。
「オリビア、今日は帰ろう?」
「いやよ! 買って! 気に入ったの、このドレス」
「無理だよ」
店内で揉める若い二人。
「……なんか、今日は店がうるさいね〜」
「ホントうるさいね。ちょっと見てこよ!」
ベスは小物を並べるフリをして野次馬をしに行ったが、あまりにも場違いな客に驚き、急いでマティを呼ぶ。
二人のうるさい客はマティと警備員によってすぐに追い出された。
「二度と入れるな」
「すみません、マティさん。ソフィアさんの知り合いだと」
警備員が申し訳ありませんと頭を下げると、マティは眉間にシワを寄せた。
「ソフィア、ちょっと聞いてもいいか?」
黒髪茶眼、緑のタイをした身長が百六十五センチくらいの男と、金髪青眼で声が大きく甘えたように話す女性。どちらもソフィアくらいの若さで、ソフィアの知人だと言い、店に強引に入った男女。
「知り合いか?」
マティに確認されたソフィアの身体が震えた。
何で? 偶然? 私がここで働いている事を知っている?
怯えた様子のソフィアを見たマティは一つの結論に辿り着いた。
「……元婚約者……か?」
マティの言葉にソフィアがビクッと揺れる。
「大丈夫だ。もう店にはいない。ソフィアがドレスを買ってもらったのだから、自分にも買えと強請っていたらしい」
だから働いているのはバレていないとマティは必死に説明する。
私が買ってもらった? オリビアは何を言っているの?
「誕生日に表から出たのを見られていたかもしれない。すまない、本当にすまない」
王妃に黄色のドレスをもらった日は裏口から入ったので見られてはいないだろう。
思い当たるのは、誕生日にワンピースを着て店の表からブライト侯爵邸に戻ったあの日だけ。
マティのせいではない。それどころかお店に迷惑をかけてしまった。
「……ごめんなさい」
「いや、俺の配慮が足りなかった」
ソフィアの震えが収まるまでマティはソフィアを抱きしめ続けた。




