第17話 ハンカチの男の子(2)
翌日、ソフィアはお針子のお姉様たちにどんなドレスがいいと思うか相談した。
「ソフィアは可愛いから、ひらひらがいいと思う」
お針子の先輩キャシーは、ちょうど手に持っていたピンクのジョーゼットをひらひらさせる。
「えー! 私は知的でクールなソフィアが魅惑的だと思うな」
彼を落とすならやっぱりギャップ萌え? とベスが笑う。
「もう落ちているからギャップはいらないんじゃない?」
サリーが冷静に言うと「確かに~」とキャシーとベスが笑った。
落とす? 落ちている? ギャップ萌え?
「彼に聞けばいいじゃない。好きな色とか、可愛い系とクール系どっちが好き? って」
「何色でも可愛いよっていうかも」
「あー、いいそう~」
盛り上がるお姉様たちにソフィアは圧倒される。
確かにルーカスなら何色でもいいと言いそうだけれど。
「ソフィアが考えるの。彼の趣味じゃないの。もっと流行りの布やデザインのことを教えてあげなさい!」
お姉様たちを叱るユーリにまで『彼』と言われたソフィアは気まずくなった。
「ソフィア、ちょっとおいで」
マティに呼ばれて奥の作業部屋へ行くと、マネキンに飾られた作りかけのドレスが目に入った。
ハイウエストでスラッと見える綺麗なドレスだ。
でも、テーブルの上に布とろうそく?
「ここにおいで」
ろうそくの近くに呼ばれたソフィアはちょこんと床に座った。
マティは布をろうそくに近づけ、布の端を熱で溶かしていく。
「ほつれ止めだ。火に近づけすぎると焦げるから、サッと素早く」
コツを言いながら本当に一瞬で炙った布を、マティは作りかけのドレスの肩に待ち針で止めた。
「王妃様のドレス!」
さっきのはバタフライスリーブの袖だ。
もう片方の袖もあっという間に炙ったマティは、反対も簡単そうに待ち針で付けたあと、切れ端の布をソフィアに手渡した。
「やってごらん」
「難しそうです」
ろうそくの火も少し怖いかも。
熱いよね。
燃えちゃったらどうしよう。
ソフィアが布を持ったまま躊躇っていると、後ろからマティがソフィアの手を握った。
「少し熱いけれど……」
このくらいの距離で、このくらいの速さでと手を動かされる。
布はあっという間に端が溶け、元の生地よりも少し濃い色で均等に固まった。
マティはゆっくりとソフィアから離れ、新しい端切れをソフィアに手渡す。
「一人でやってみようか」
「はいっ」
さっきはあっという間に美しくできたのに、全然うまくいかない。
焦げてしまったり、溶けすぎて布が短くなってしまったり。
なんとかできても均等ではないので、全然美しくない。
「難しいです」
ソフィアが困ったように微笑むと、マティは「尊敬した?」と笑った。
「火は一人の時はやらないように。ここで俺の前だけで練習ね」
「はい」
「それに、後ろから抱きしめる口実になるしね」
「抱きっ……!」
さっきは布とろうそくに夢中だったが、そういえば後ろから手を握られていたような気がする。
「もう一回やる?」
「ひ、ひとりで、やりますっ」
意識しすぎてカチカチになってしまったソフィアをマティは笑った。
マティは真剣に作業するソフィアの練習を見守りながら、心の中で呟いた。
少しは男として意識してくれたか?
ソフィアのことだからきっと『嫁になるか?』は冗談だと思っているだろう。
本気だよ。
どう言えば、本気だと伝わるだろうか?
「もう少し距離を一定に」
「えぇっ? 今は一定じゃないですか?」
「ほら、目を離すな」
一瞬、布とろうそくが近くなると指摘しながら、マティは新しい切れ端をソフィアに手渡した。
◇
背中はイリュージョンレース。
極薄のシースルー生地に刺繍をして柄が素肌に浮かび上がっているように見せたい。
スカートは左右非対称のアシンメトリーがいい。
ノースリーブだと品がないかな?
ソフィアは思いつくまま何枚もデザインを描いた。
うまくまとまらず、マティに見せるレベルにはなかなかならないけれども。
でもすごく楽しい!
夕飯の後から夢中で描き、寝るのが遅くなる日が何日もあった。昼間は仕事をし、夜はデザインをする日々。
「頑張りすぎよ」
馬鹿ねとユーリがソフィアのおでこに手を当てた。
寝不足と急に寒くなった日が重なり、ソフィアは熱を出してしまったのだ。
「だいぶ熱いわ」
今日はゆっくり寝るのよとユーリが微笑む。母と同じくらいの年のユーリの急に母を思い出したソフィアは急に寂しくなった。
「またあとで来るわね」
ユーリはソフィアの頭を優しく撫でると、部屋から出て行く。
「ソフィアの容体は?」
「だいぶつらそうね」
部屋から出てきたユーリからソフィアの容体を聞いたマティは眉間にシワを寄せた。




