第12話 家庭教師(1)
今日は2回目の王妃様と打ち合わせの日。
ソフィアは先日作った花柄のスカートと、翌日に作ったお揃いの柄のリボンを身につけ、マティと一緒に王宮を訪れた。
「色は良いのですが、ネックレスが大きいので袖をもう少し長くした方が綺麗に見えると思います」
着ける予定のネックレスとドレスの色に違和感はなかったが、マティが袖の変更を提案する。
「暑くならないかしら」
「袖を重ね合わせるようにし、軽く涼しくします」
さらっとデザイン画を描きながら説明するマティをソフィアはジッと見つめてしまった。
確かに袖を少し長くした方が良さそう。
こんな一瞬で長さを変えると判断出来るマティはやっぱりすごい。
経験値なのかな。
センスなのかな。
私もこんな風にすぐ提案できるようになりたい。
「あ、そうだわ。息子を呼んでも良いかしら。息子の服も相談させて欲しいの」
王妃が護衛に合図を送ると、扉から第二王子と側近のルーカスが入室する。
立ち上がって礼をしたマティとソフィアに、ルーカスは礼を返してくれた。
「あれ? ソフィア・ブライト侯爵令嬢?」
半年ぶりに見るソフィアはポニーテール、眼鏡なし、綺麗な花柄のスカートで美しい。
学園とだいぶ印象が違うねと第二王子のレオナルドは微笑む。
「ごきげんよう、殿下。学園に特例を作ってくださったとうかがいました。ご配慮ありがとうございます」
「頑張る子は応援しないとね」
気にしないでと言いながら、レオナルドはルーカスと目を合わせた。
「ルーカス、ソフィア嬢と別室でお茶してくれないか?」
「かしこまりました」
ルーカスは隣の部屋をお借りしますと王妃へ伝え、ソフィアへ手を差し出す。
ソフィアは慣れない令嬢扱いに頬を赤らめた。
護衛が開けた扉を通り、隣の部屋のテーブルの前へ。
爽やかに手が離され、椅子まで引いてもらった。
何、この令嬢扱い!
椅子を引いてもらうとか、何?
動揺しながら、でもそんな素振りは見せないように笑顔でソフィアが椅子に座ると、そのまま横のティーセットでルーカスが紅茶を淹れてくれる。
側近って紅茶も入れるの?
侍女が淹れるんじゃないの?
「どうぞ」
薔薇のいい香りがする紅茶を淹れてもらったソフィアは、ドキドキする心臓を悟られないように、できるだけ冷静にありがとうございますと微笑んだ。
「ルーカス・ウィスローです。同じクラスになったことはありませんが同じ学年です」
「ソフィア・ブライトです。テストの結果がいつも一位なのでお名前は存じております」
ルーカスは学年一位。
どんなに勉強しても追いつけなかった。
堅い自己紹介の後、目が合ったルーカスがソフィアに微笑む。
黒髪茶眼の優しい雰囲気のルーカスにソフィアは釘付けになった。
「ソフィア嬢は十二番でしたね」
「はい。自分で勉強したのですが、わからないところがそのままで、順位を落としてしました」
「一人で勉強を?」
「課題を提出すると先生がアドバイスをくださるのですが、それでも全部はわからなくて」
説明を見てもわからなかったとソフィアは恥ずかしそうに答えた。
「もしよければ教えましょうか?」
「ご迷惑では?」
一回だけでもお願いできれば、あの計算問題もあの読解問題も解き方がわかるかもしれないけれど、初対面なのにそんなに甘えても良いのだろうか?
「先生ほど上手には教えられませんが、私でよければ」
本当にいいのかな?
でもその申し出は正直すごく嬉しい。
「あ、えっと。……お願い……したいです」
「喜んで」
ソフィアの仕事が終わり、お針子たちと食事が終わった後の時間。来週金曜日の夜七時から八時までの一時間でどうかと提案された。
場所はチャーチル・ジョンソン・オートクチュールのお店のどこか一室を借りて。
「それではルーカス様が大変では?」
「女性を遅くに連れ出すわけにもいきませんし、お店ならば安心でしょう?」
誰でも見える場所で構わない。
お店の誰かが一緒でも、不安ならば店長に同席を頼むのはどうかと言うルーカスの気遣いがソフィアは嬉しかった。
「ありがとうございます」
ルーカスは紅茶を飲んだだけなのに品の良さがわかる。
男性とこうやってお茶をいただくのは初めてだ。
ニコラスとは一度もお茶会がなかったから。
「あ! 半年ほど前ですが階段でぶつかりそうに。あの日は急いでいて、お詫びもせず申し訳ありませんでした」
ソフィアが頭を下げると、ルーカスは困った顔をした。
「あの日、ソフィア嬢を追いかければ良かったです。……泣いていましたよね?」
「お恥ずかしいです」
「何か力になれることはありませんか?」
ルーカスの予想外の言葉にソフィアは驚いた。




