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仕事盛りの小便小僧

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 アイドルの条件とは、どのようなものだと思いますか、つぶらやくん?

 見目うるわしいのは有利でしょうし、抜きんでた歌唱力や運動神経や話術……いろいろと人が求める姿を体現してくれている存在でしょう。まさに偶像、といいますか。

 偶像であるからには、およそ普通の人とは異なる姿が求められます。ネタか本気かはわかりませんけどね。その中で、しばしば耳にするものに「○○はトイレにいかない」という内容のもの。

 きれいきたないはともかくとして、その手の生理現象からは縁遠い存在である。いや、そうであってほしい、という願望のあらわれといえましょう。

 夢を壊さないために、それらの願いにこたえ続ける姿はまさにプロフェッショナル。おいそれとできるものじゃないかと。しかし、人間である以上はどうしても逃れられないことはあるものです。

 そして人間にとどまらない範疇となれば、何を出したり腫らしたりするかははかりかねるものです。最近、僕が友達から聞いた話ですけれど、耳に入れてみませんか?


 小便小僧の存在、つぶらやくんも知っていると思います。

 あの放尿する男の子を模した像兼噴水である、あれです。由来はいろいろあるようですが、とある少年が爆弾の導火線についた火を、小便で消したことがもと……というのが僕の最初に聞いた小便小僧の説ですね。

 けっこう好きですよ。どんなに大被害をもたらしうる現象も、その爆発前であるならごくわずかな小便でも消し止めることができる。事前に動くことの勇気や大切さを、教えてくれているような心地になりまして。

 で、その小便小僧。友達の住んでいるところにあるものは、とあるビールの工場が協力してくれているそうで、某所のデリリウムを流すのをリスペクトして自社のビールをふるまっているそうなんですよ。

 ビール好きな人にはいいかもですが、アルコールに縁がない人にはさほどうれしくないのも確か。しかも、いつもの水に比べて黄色味を帯びているものだから、よけいに小便を想起させる雰囲気。友達個人としては、あまり面白くないものと思っていたそうです。


 そのビールイベントが行われているのは、特定の土日の二連休。

 夜間にはいったん、ビールの放尿もストップされるのですが、友達がたまたま夜中にコンビニへ買い出しに行くとき、ふと例の小便小僧の前を通りかかりまして。「ちょろちょろ……」と、まさに小便をするようなか細い音がして、つい顔をそちらへ向けてしまったんです。

 小僧は小便をしていました。昼間のようなビールと違い、特徴的な香りは漂ってきません。単なる水なのでしょうか。

 なお近づいてみる友達は、小便小僧が白でも黄色でもなく、土の色に近い茶色のものを垂れ流しているのを確認します。


 ――おいおい、奇病発覚だな。早いところお医者さんに診てもらったほうがいいんじゃないのか?


 友達は最初、少しにやつきながら状況を見やっていたそうですが、やがておかしいところを見て取りました。

 たまっていくんです。小便が。

 ちょっと大きめの浴槽を思わせるスペースには、もちろん排水口がついていて、普段の小僧の仕事中は、出ていったものがそこへ飲み込まれていきます。

 しかし今は、その口はすっかり小僧の出したもので塞がってしまっており、それに伴って少しずつ茶色い小便はかさを増やしているそうでした。


 友達は戸惑います。

 このまま止まらずにいたなら、いずれこのスペースから小便があふれ出し、朝には惨事に至っているかもしれません。

 しかし、どこに連絡したものでしょう。ビール会社でしょうか? この夜中に? あるいはお役所でしょうか?

 ケータイのたぐいは家へ置いてきてしまったし、友達はどう対処したものかと悩んでいたところ。


 びちょん、と音を立ててその小便だまりの一角で、大きな水はねが起こりました。

 その正体はわかりませんでしたが、水はねのあったところからは、小僧が出した小便がすっかり姿を消していたのです。

 そこから続けざまに、他のところでも同じような水はねが。相変わらずブツの正体そのものはつかめませんが、それがこの暗い空の上のほうから降ってきていることだけは、なんとかわかりました。

 そしてそれが、小僧の出した茶色い小便のたまりにぶつかると、もろともに消えていつもの噴水の姿が浮かんでくる。やがて最後に排水口の部分がはねるとともに、元通りの景色が戻ってきました。

 小便小僧も、先ほどまでの勢いやどこへやら。出していたものをぴたりと止めていたそうなのですよ。


 小僧はあの天から落ちる何かを受け止めるために、茶色い小便を出していたんでしょうかねえ。あれなしで受けていたら、どうなっていたのでしょう?

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