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「205号室の午後」続編  作者: ChatGPT
9/9

『205号室の午後 ―一真のまなざし―』 —


【1】足音


あの日も変わらず、静かな午後だった。


読んでいた本を閉じ、少し伸びをする。

窓の外では、鳥が鳴いている。

そういえば、そろそろ来るころだ。毎週、決まってこの時間。


“宅配便の人”。


まだ名前は知らない。

けれど、以前とは違って、最近来る人は——若くて、ちょっと無口な人だった。


ドン、と階段を上がる足音。

迷わずこちらの方へ向かってくる気配がして、わたしはそっと立ち上がる。


ピンポーン。


「……はい」


受話器越しに答える。少しだけ、喉の奥が乾いていた。



【2】まっすぐな眼差し


扉を開けた瞬間、今日の空気が違うのに気づいた。


彼が、何かを観察するようにこちらを見ていたからだ。

一瞬だけ、その視線に戸惑う。


「ごくろうさま。……サインは、こちらで?」


そっと手を伸ばすと、彼の指に少し触れた。

冷たかった。手先が冷えているのか、それとも——


「……あ、冷たい」


とっさに、そんなことを口にしてしまった。

彼が戸惑うのがわかった。ああ、余計なことを、と心の中で思う。


「ごめん。今日、ずっと手が冷たくて。室温、下げすぎたかな」


言い訳のように笑って、彼の反応を見る。

でも彼は、それ以上、何も聞かなかった。


「……どうも」


頭を下げて帰っていく背中は、妙に律儀で、でもなぜか——

また来る気がしてならなかった。



【3】気配


それから、彼は定期的にやってきた。


荷物はいつも同じようなもの。紅茶、花、本。

たまに届く、誰からかの小さな手紙。


そして彼は、いつも扉の前で、ほんの少しだけ間を置くようになった。


呼び鈴の後、返事をしても、すぐには喋らない。

わたしが「こんにちは」と言えば、「あ、はい……」と、やや遅れて応じる。


人見知りだな、この人。

でも、不器用なやさしさが、仕草の端々にある気がしていた。



【4】言葉が重なる日


ある日、彼が言った。


「黒瀬さんって、お茶、好きなんですね」


その声は、ほんの少し緊張を含んでいて、でもまっすぐだった。


「好きです。ひとりでも、ちゃんと淹れるの。なんでもない午後でも、ちゃんと続けるのが、私なりの暮らし方」


その言葉に、自分でも驚くくらい自然に答えていた。


他人に語るほどのことでもないのに、なぜだろう。

彼には、ほんの少しだけ、話したくなってしまう。


——わたしの、空白の時間のこと。


——誰も知らない、午後のこと。



【5】誘い


次の配達の日。荷物を受け取ったあと、

彼がふと玄関にとどまっていた。


わたしのほうが、自然に口を開いていた。


「……よかったら、今度、お茶でも飲んでいって」


彼は驚いたように目を見開いた。

でも、すぐに頷いた。


「いいんですか?」


「ええ。……ちょっとだけ、ね」


扉を閉めたあと、わたしはカップを選びながら、

ふと、笑っている自分に気づいた。


——たぶんもう、あの午後から決まっていたのだ。


——この人が、わたしの「暮らしの中」に、入りはじめていたこと。



(了)


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