莉沙 〜プロローグ〜
「退屈だな、なんか起きないかな」
朝のランニングは今日も好調な走りで軽快なフットワークを感じさせる素晴らしいフォームだ。
なのだが、天気は晴れ心は曇り。
莉沙こと私はこう思っていた。大学なら、大学でなら自分にも出会いがある。そんな淡い希望を抱いていたものの打ち砕かれたというありふれた話を現在身をもって体験している一般女子大生である。
私はお喋りでもないし、社交的でもない。話すよりも聴いている方が全く満ち足りているタイプの人間なのである。だがしかし、しかしだ。
講義受けてすぐに帰るこの繰り返し。サークルに入ればまだ希望はあったが、人見知りと雰囲気がキラキラしていて居心地の悪さから断念せざるを得なかったとだけ言わせてもらおう。
まあそれそはそれとして、ぼちぼちやってけばいいやそんな甘い考えでいた過去の自分を叱りたい。
生来の先延ばし癖が祟り今に至る。
ボ、ぼ、ぼっちじゃないし!
大学の友達はちゃんといるのだ。小学校からの付き合いのある親友だ。ブワッと吹き出る汗を拭う。
それに、退屈なだけで不幸って訳でもないわけで、ランニングして気持ちの良い汗をかけば心も晴れているだろう、なんて考えながら走っていたからなのか。
「ぶげっ!」
すっ転んだ。なに何起こったのか確認する為足指のさきにぶつけた何かを視界に収めた束の間。
擦りむいちゃってる膝小僧から少しだけ血が出てるのかじんわりと赤いシミをピチピチインナーへ広げていく。幸い早朝もあって目撃者はいない、私は胸を撫で下ろす。
「血が出てる、貸そうか?」
え、いたんかーい!とイ○ミもニッコリな驚きかたをしてしまった。
ただ、相手はどタイプの微笑みの似合う爽やかイケメンときた……
「てへっ☆」
「可愛く舌をだして、てへっ☆しても誤魔化せてないぞ」
そう言いながらも、イケメン君は気遣いながらハンカチを差し出してくる。
(照れ隠しかわいい)
ほのぼのとした空気感が二人の間に出来上がりつつある。
周りに人がいれば砂糖を口に含んだような顔をしているだろう。
一方莉沙の心の声はというと。
(天国のお母さん私今ときめいてます)
有頂天、それはもう有頂天である。曇っていた心は雲の隙間から太陽が眩く差し込み瞬く間に晴天となっていた。
「ふふっ」
私の胸の奥のわだかまりがとけた可笑しさで込み上げてくるままに笑った。
「大丈夫か?もしかして頭打ったとか……」
失礼なこと言われても気にならない。今はこの心赴くままでいたいから。
だから花が咲いたように笑う。そうやって心のままにこの訪れた恋心を祝福してやりたいのだ。
この出会いが私の人生を大きく変えることになるなんて思いもしなかった。