パスワードは円周率!?
『なろうラジオ大賞5』参加作品。
テーマは「パスワード」です。
中学の同級生で、一緒に登校している山田君は、朝が弱い。今日も三十分遅れで来た。あぁもう遅刻だ。これは一度だけのことじゃない。さすがに堪忍袋の緒が切れた。僕は問い詰める。
「ねぇ山田君。どうしていつも遅刻するの?」
「ごめん、たかし。これには深い事情があって」
「どうせ起きられないとかでしょ」
僕が呆れた声で言うと、山田君は俯いて、地面に落ちている葉っぱを眺めていた。あれ、もしかして本当に深い事情があったのかな。
僕は、
「ごめん。もし僕に相談できることなら言って」
と、山田君に言う。山田君は、葉っぱを拾うと、哀愁の漂った顔で、
「寒くて布団から出られないんだ」
と言った。これには僕も転んでしまった。なんてくだらない理由だ。僕は怒りをあらわにしながら、
「僕は寒い中、君を三十分も待ってたんだからね! どうせ遅れるなら連絡くらいしてよ!」
と言う。山田君は、「いや~スマホのパスワード忘れちゃって」と、陽気に言った。
そっちの方が重要じゃない?
「大変じゃん。何かヒントとかないの?」
「円周率」
「円周率!? いったい何桁まで登録したの!?」
「たぶんいっぱい」
山田君はスマホを取り出して、「3.1313……」と呟いている。僕はツッコんだ。
「違うよ。円周率は、3.1415だよ」
「円周率って0と1の集合体じゃなかったの?」
「じゃあ、3.1313って何なんだよ!……あぁ、ロック画面になっちゃった!」
――――キーンコーンカーンコーン
チャイムの音が鳴る。僕は走った。
「ヤバイ遅れる! 今日英会話だ! ジョン先生怖いんだよ!」
「あのキングクラブみたいな二の腕の……あ!」
「どうした、山田君!」
山田君は、何かを思い出したみたい。でも正直立ち止まらずに走って欲しい。
「パスワード思い出した!」
「どうして今!?」
「英会話教室の部屋番号にしてたんだった」
「英会話教室!?」
山田君は、スマホを取り出して「3-3・1」と入力していた。この数字は、三年三組の、英会話教室の一号室という意味がある。
「どうして思い出せたの山田君!」
「イングリッシュイングリッシュエングリッシュエンシュリッツ……」
「無理があるからね!?」
「まぁいいじゃん。解ったんだから」
山田君はそう言うと、全力ダッシュで僕を追い抜いていった。
「あ、ずるい! そのまま教室に向かうつもりだろっ!」
「うん」
「何て奴だー!」
そんな僕たちのやり取りを見ていた先生たちは、笑っていた。