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ワクワク!自己紹介タイム!


「鈴から行くね。滝豊鈴。飛翔高校1年だよ。Princessってアイドルグループやってることは祐希から聞いたかな?」


俺は首を縦に振る。


「そっか。よろしくね。」


爽やかににこりと笑うギャル、もとい滝豊さん。


「あたしは秋梨風乃。気軽にふーので良いよ。…あ、2年ね。」


陽キャ…改め朝梨さん。フレンドリーな態度で少し安心した。


「佐倉らら。よろしくね。」


背の高い女子は佐倉さん。口調の柔らかさとは対照的に、無表情で目が死んでいて怖い。


「この子人見知りしてるだけだから怖がらなくて良いよ。」


俺が佐倉さんにびびっていたのが伝わったのか隣にいた朝梨さんがフォローした。


残りはヤンキー。


「葵、早く自己紹介しなよ」


なかなか自己紹介しないヤンキーを朝梨さんが急かす。


「しなくて良いだろ。てかクビだろクビ。なんでうちらの世話を男がやんだよ。」


そんな事俺に言われましても


「お前もうちらって分かってて来たんだろ?プライベートにまで干渉してくんのきっしょいぞ。」


ヤンキーのきつい物言いに少し体がすくむ。

はっきり言われる分坂上さんの自己紹介中漂っていたお前帰れよの無言の圧より怖い。

アイドルの寮なんて知らねーよ。こっちら男の寮だって思ってたんだよ。

とは口に出さず。ヤンキーこえぇ…。


「その言い方はないんじゃないかな。」

「言い過ぎ。」


滝豊さんと朝梨さんは必死に止めてくれているけど、ヤンキーは態度を変えない。


「家まで来るか?普通。帰れよ。クビだって言ってんだろ。」


寧ろ口調はさらに強くなる。

仕事で来ているのにそこまで言われる筋合いはない。

だいたい俺はPrincessなんて知らなかったしましてやファンでもない。

俺は椅子から腰を上げ、朝梨さんが置いてくれた荷物を取って玄関へ向かった。

なんで仕事でこんな罵倒されなきゃならねーんだよ。

初日からめちゃくちゃブラックじゃねーか。


「ちょっ、待って」


玄関の扉に手をかけた時、誰かに手首を掴まれた。

振り返ると朝梨さん。


「帰るの」

「雇い主さんにクビだと言われたので。」

「えーっと…」


朝梨さんが俺の事を指差しながら何かを思い出そうとしていた。

名前かな。自己紹介してないし。


「佐藤蓮です。」

「蓮の雇い主、あたし達じゃないよ」

「え?」


なんかしれっと名前呼びされてる?

フレンドリーだな。スルーするけど


「蓮に仕事紹介した人いるでしょ。田中さん。」


田中は俺にこの仕事を紹介した姉の友人だ。

そういえば芸能関係の仕事してるって言ってたな。今になって思い出した。


「蓮の雇い主、田中さんだから。」

「そうなんですか?」


てっきりここの5人なもんだと


「だから田中さんからクビって言われない限り、クビじゃないよ」


これは引き留めてくれてる?


「たとえそうだとしても辞めるつもりです。あそこまで罵倒されたら仕事できないので。」

「それはそうだよねー。ごめんね、葵が。あ、あの子鬼塚葵って言うんだ。いかつい名前でしょ?悪い子じゃないんだよ、そうだ、今田中さんに辞めれるか聞いてみたら良いじゃん」


朝梨さんのマシンガントークにつられて、成り行きで姉の友人…田中に電話することになった。

伝えるのは辞めたいという旨。

返ってきた答えは


「え、駄目だよ。」

「なんでですか?!」

「一応アイドルの身の回りの世話係だからさー、知り合いじゃないとなんかあった時怖いんだよね。蓮は小さい頃から見てるし大丈夫かなーと思って」

「それって履歴書見て面接するって作業がめんどくさいだけじゃないですか」

「バレたか!まあ頑張って仲良くなって!じゃあね!」


…電話切られた…

めちゃくちゃだな。この人。


「田中さん、なんて?」

「辞めれない感じでした」

「そっかー。じゃ、頑張ろ!」


元気にそう言いながら私の背中を叩いてきた朝梨さんの勢いが凄くて、思わず体がよろけてしまう。


「俺、どうしたら良いんですかね。滝豊さんと朝梨さんは親切にしくれますけど…あとの3人に納得してもらえない限り身の回りの事とかできなくないですか…」


俺は寮母だ。寮母だということは、この家に住む人たちの私物に触れることになる。ただでさえプライベートを共にすることをあんなに嫌がられているのに、家事なんか出来るのだろうか。


「うーん。仕事だから仕方ないよなあ…。あと佐倉は反対派じゃないよ、多分」

「え…そうですか?」


俺がさっき対面した時は冷たい表情で私を見下ろしていたから、坂本さんや鬼塚さんと同じ意見なんだと思ってた。


「さっきも言ったけど人見知りだからさ、あの子。」

「なるほど…?」

「とりあえず戻ろうよ」


俺が1番不安に思っていることはなんとなくスルーされ、朝梨さんは俺の手首を引っ張り、部屋に連れ戻した。

…にしても…いくら割のいいバイトでもこれは帰りたい…。

いや、こんな環境なら全然割に合ってないような気すらしてきた。


「蓮連れ戻して来たー」

「おかえり、ふーの。」

「ゆうちゃんと葵、自分の部屋戻ったよ」


さっき5人と話した部屋に戻ると、滝豊さん、佐倉さんしかいなくて、少し安堵した。


「蓮って言うんだ。ねえ、蓮くん、自己紹介まだだったよね。祐希と葵いないけど、自己紹介して欲しいな。」


優しく微笑む滝豊さんの姿に死ぬほど悪かった気分が少し和らいだ。

見た目で判断してはいけない。彼女は間違いなくこの世に舞い降りた女神だ。


「佐藤蓮です。飛翔高校1年生で…姉の友人である田中…さんに…ここの寮母を紹介されてきました。」

「高1なんだ。鈴と同い年だね。同じ高校だしタメ口で話そうよ。」


ずっと柔らかい口調で話してくれる滝豊さんはまるで幼稚園の先生のようだった。


「これ飲んで落ち着いて。」


急に耐性のないヤンキーにブチギレられて若干震えていたことに気付いたのか、目の前にその言葉と共にマグカップが置かれた。マグカップの中にはお茶が入っていて、お茶からは湯気が立っている。

置いてくれた手の主を見ると、佐倉さんだった。


「ありがとうございます。」

「私、中3だからタメ口で良いよ。佐藤さんの方が年上だし。」


そう言って佐倉さんは微笑んだ。

中学生…大人っぽいからてっきり年上だと思ってた。

坂上さんや鬼塚さんと同じような威圧を感じて勝手にびびってたけど、その微笑みに恐怖は感じられなかった。


「佐藤さんは、これからどうするの?」


変わらず柔らかい口調で質問してくる佐倉さん。

なんと説明すれば良いか分からず声が出ない俺に代わって、朝梨さんが答えてくれた。


「蓮、辞めたいって言ってたんだけどね、田中さんが辞めさせてくれなかったんだって。めちゃくちゃだよね。」

「田中さんならやりかねないね」


この人達と田中の関係は知らないけど、どんな風に思われてるんだろ。


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