第一話 ここはお天気局
今日も時間だ。廊下の向こうから、ぱたぱたと駆けてくるあわただしい足音。番組ADが来おった。
吾輩の準備は、もち万全である。
「閣下、五分前です!」
「ふむっ、善き…いや、悪しきにはからえッ」
吾輩は、いつもこう答える。
これが吾輩の日常である。
吾輩の名は、サンダー日暮。雷鳴の悪魔である。地獄の三丁目生まれ、十二万四十歳である。ちなみに地上デビューして、五万と三千年くらいになろうか。忙しく活動しておるうちに空の上への出向勤務もかなり長くなってしまった。
「おいっ、西日本の大雨まだ降ってるぞっ!?」
「あれえっ、夕方上がる予定じゃなかったでしたっけ!?」
「北海道の寒気、誰か片付けといて!」
「えっ、まだ無理い!今ですかあ!?」
「ちょっと!めちゃくちゃじゃないっ、この梅雨前線組んだの誰!?」
これが吾輩の出入りしている、日本の遥か上空にある『お天気局』である。天国の管轄であるこの放送局では、全国のお天気を管理、配信しておるのだ。諸君らの地上波で流れる『天気予報』などは、この『お天気局』からのお天気配信を元に運営されておる。
見たところやたら忙しいが、『お天気局』と言うのは昔っからこんな具合である。魔王の又従兄弟である吾輩が通ると言うのに、誰も会釈をせん。ま、無礼にも慣れたが。
「やーもー今、大分押しててこの後ケツカッチンなんすよ。閣下、一発派手なの頼んますわあ」
寄ってくるのは、大方こう言う連中である。お疲れ!とか寿司行く?とか言ってくるバブリーな時代の連中はいなくなったが、いぜんノリが軽いのが多くて困る。
「任しておけ!傘のない人間どもが靴下からパンツまでびっちょになるほどゲリラ雷雨を降らしてやるわッ!」
それでも吾輩は、長年培ったキャラクターと言うものがあるので、必ずこのテンションで答えるのである。
吾輩はいわゆる『災害』担当だ。にわか雨から雷雨、雹につむじ風、黒雲がもくもく湧き出て空がどよどよ荒れ狂うときは大体、吾輩が担当していると見て間違いない。
普段、お天気局がタイムチャートを組んで配信している天気を急変したいときに呼ばれるピンチヒッターなのである。
ちなみにもんのすごい晴れの日で水不足になるときは顔出しNGの歌姫・日怒が、空っ風吹き荒れて山火事が発生しやすいときは最近注目の男女二人組ユニットHIASOBIが、しんしんと恨み深い長雨や雪が降り募るときは、森羅林檎などが起用されることが多いかな。
だが、由緒正しい悪魔である吾輩の牙城を侵すものはいまだ現れん。
てわけで。吾輩は地獄の楽団を率いて今日も大暴れである。
「ウフワハハハッ!お前もずぶ濡れにしてやろうかあっ!?」
ま、これがざっと、吾輩がいる業界の感じなのである。