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畑のガンウーマン その2

 そうだ!


「一回だけ、一回だけ試させて! 一回だけえ!」


「必死すぎだろ。ちゃんとしたアイデアなんだろうな。急いでるんだぞ」「どんなのか言ってみてよ。とうちゃん」


 必死にアピールするとヒルズヒスとニイが足を止めて聞いてくれた。


「ヒルズヒスの『爆足』で僕たち跳んできたけど、あれをもっと効率よくしてみたらどうかな?」


「どういうことだ? もっといい方法があるって言うのかよ」


「うん。あるかもしれない。ヒントはヒルズヒスの【アクセサリ】だよ」


 僕は右手で銃のハンドサインを作り、人差し指を上に向けてヒルズヒスとニイに示した。二人からはアルファベットの”L”に見える状態だ。


「あれか? あれは《着力》で作った(つぶて)を爆発で飛ばす武器だぞ」


 ヒズルヒスの説明を聞いたニイが少し思案顔をし、やがてハッとなった顔をして、予想を口にした。


「んー? ひょっとしてわたし達を礫に見立てるってことかなあ」


「おおー、その通り!」


 人差し指でニイを差す。ついやっちゃたけど良い子は真似しちゃだめだぞ。


「理解が早くて助かるよ。筒の中で爆発させることで、爆発の力を逃がさずに中の物体に跳ぶ力を伝えることができる」


 右手の人差し指に左手の人差し指をくっつけてから、左手を上に移動させる。分かりやすいように右人差し指の銃口から上に向かって弾が飛ぶ様子を指で再現してみたつもりだ。


「理屈はそうだけどなあ、この人数が発射筒に入るほど【ツヴァイゼクス】を大きくすることはワタシにはできないぞ」


 僕はそれを聞いて我が意を得たりとばかりにL字にした右手の親指を自分に向けた。それを見てニイはわかったみたいだ。


「そうか! 発射筒はとうちゃんが作ればいいんだ! そして中で『爆足』!」


「正解! どうだろう? この案」


 やることは難しくないと思うんだけど、どうだろう。


「話を聞く限りだとやってみる価値はありそうだ。ヨシ! それ試すぞ! ダメなら走る!」


 オッケー、すぐ取り掛かるぜ。



 《》 《》 《》 《》 《》



「よっし、入れ入れ」


 『方体(キューブ)』に『円柱(ピラー)』を斜めにして固定する。これが”銃口””発射筒”の役目をする。その内側に入るような一回り小さい『円柱(ピラー)』を作る。それには底面にいくつか『角枠(スクウェア)』を張り付けてそこに足を置けるようにする。


 この小さく、底がある方の『円柱(ピラー)』が”弾丸“となる。今はその”弾丸“の中に三人で入っていくところだ。なるべく長めの筒の方が、飛行が安定するため、ヒルズヒスの頭だけが出るような長さにした。


 しまった。直径をちょっと小さくしすぎたか? なるべく細いほうが飛びやすいかと思ったんだけど失敗したかも。


 三人だとぎゅうぎゅうで密着しすぎる。僕より背が高いヒルズヒスの胸に僕の顔が押し付けられてしまっている。あいにく《ドレス》の胸プレートのため、硬くて顔が痛い。腕のあたりにもニイの胸部プレートが押し付けられている。


「イタタタタタ。狭くしすぎたかなあ?」


「お前、痛いばっかり言ってないか? 細いほうが飛びやすいのは確かだろ、少し我慢しろ!」


「とうちゃん、しっかり」


「うっす」


 確かに騒ぎ過ぎかも。恥ずかしくなったので、静かにする。


「じゃあ、時間もないしさっそく行くぞ! 3,2,1 点火っ!」


 ドガン! 


 心の準備を仕切る前に爆発が起こってしまった。早いよ、ヒズルヒス。


 爆音と同時にGがかかる。先ほどまでの『爆足』とは威力の桁が違っているのがわかる。ぐうっと体が下方向に押し付けられるが、何とか踏ん張る。


 ヒュルルルル


「おっほー、こりゃすげえ。一発でめちゃくちゃ飛んでるぞ!」


 ヒルズヒスがはしゃいだ声を出した。今回は顔が近いため、なんとか声が聞こえる。


「わたしは何にも見えないんだけど!」


 下の方からはニイの不満の声が聞こえてくる。


「ニイは何言ってるかわかんねーよ。お? 頂点通過したっぽいな」


 体に感じる慣性の感覚がのぼりの感覚から落ちていくような感覚に変わった。


「おっと、なんか見えてきたぞ! …………トンボどもだ! 消去準備!」


 トンボに追いついたらしい。即席のアイデアだったが、まさか一発で追いつくとは。


「了解!」


「消去!」


「『消去』!」


 ヒルズヒスの合図に従って、三人を囲っている『円柱』を消す。目の前の壁が消えパッと視界が広がった。


 空を飛ぶのも本日三回目なので、少し落ち着いて飛んでいる方向に何があるか確認する。


 ちょっと向こうに白い《ドレス》に身を包んだ女性が見えた。女性は風を操り、無数のトンボたちを拘束しているようだった。


 オリカだ!


「オリカ!」「かあちゃん!」


「予定通り挟み撃ちだっ! 【ツヴァイゼクス】!」


 ヒズルヒスが【アクセサリ】を出現させた。空中からそのまま無数のマズルフラッシュを輝かせる。


 ドババババッ


 第一撃で四分の一ほどの〈不退転〉が消え失せた。すげえ。


「よう、オリカ! 新入り連れてきたぞ! 受け止めてやれ!」


 大音量でオリカに伝えるヒルズヒス。僕たちに気づいたであろうオリカが、こちらを見て驚いた顔を見せた。


 それから自分の右手側にいるトンボたちに向かってあごをしゃくる。


「よっしゃあ! 『獣炎弾(じゅうえんだま)』ぁ!」


 ヒルズヒスがそちらに向かって銃撃を集中させた。


 ガガガガガガーン


 〈不退転〉達がたちまち消し飛ぶ。すると体にふわっとブレーキがかかり、速度が低下した。オリカがトンボを拘束していた風を僕たちを受け止めるような風に変化してくれたようだ。


「ワタシはいい! 『爆足』!」


 ヒルズヒスが空中を蹴り、『爆足』で方向転換を行う。狙いはオリカの左手側で拘束されているトンボたちのようだ。一直線に鋭く跳ぶ。


「これで最後かあ? 『龍炎弾(りゅうえんだま)』ぁ!」


 ヒルズヒスの【ツヴァイゼクス】の両手合わせて十二の銃口から、龍をかたどった炎が噴き出し、トンボたちに向かって飛んでいく。


 オーバーキルじゃない? これ。

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