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ライ麦畑でぶった斬る その12

 ニイに斬られた〈不退転〉がボンッと姿を消した。その胴体だった場所に小さな虫がふらふらと飛んでいるのがわかる。


「お、上手いこと"本体"を避けたな」


 希望を果たして、ニイが笑顔で落下してくる。僕にはどう着地するのかわからないけど、さっき思いもよらない方法で背後の大トンボを斬ってみせたニイのことだか、心配ないよね。


 僕は着地後に労をねぎらえるように着地点に向かって歩いた。


「おい! あんまり近づくと……」


 ヒルズヒスが声をかけてきた。んん? どうしたんだろ?


「『ウォータージェット』!」


 もう少しで着地するという時に、ニイが《ドレス》能力で水を下に向けて噴射した。落下の勢いを弱めるためだろうな。


 なんて考えてると激しい水流が地面とぶつかり、土と混ざり合って周りに飛び散った。びちゃびちゃっと僕の体や顔に泥の散弾が吹きかかる。マジか!


「うわわわっ、ぺっ!」


 顔面を襲った泥が少量だが口に入ってしまった。さらに悪いことに……


 ゴンっ!


「あぐっ!」


 頭に何か降ってきて当たった? 目がチカチカするう。


 大きな痛みに頭を押さえてうずくまっていると、ヒルズヒスの笑い声が響いてきた。


「ぶははははっ。あ、いや、すまん。大丈夫か頭? 〈不要品〉の珠は頭で受けない方がいいんじゃないか?」


 ぐう、〈不要品〉か、油断したあ。


「大丈夫?」


 きちんと着地を決めたニイが近づいて安否を気遣ってくれた。


「なんとかね……イチチ……ほら、これ」


 僕の頭に落下した後、足元に転がった珠を拾ってニイに手渡す。表面に"不退転"と刻まれた珠だ。


「お見事。ニイの手柄だよ」


 ニイは両手をそろえてそれを大事そうに受け取り、珠を見ていた。自分の成長した実感っていいもんだよね。


 僕も一緒になって感慨にふける。やがてニイがパッと顔を上げ、満面の笑みを浮かべて僕に抱き着いてきた!


「うわわわわっ!」


「ありがとう! とうちゃん!」


 ギューッと僕の背中に手をまわして抱きしめてくる。つい一時間前までは「…………」が必ず語尾についていたのに、急な変化に戸惑う。なんだなんだ。


 僕の両手はどこに配置すべきか戸惑っていると、ヒズルヒスと目が合った。一応どうしたらいいのか目で訊いてみる。


「気にせずハグしてやれ。そいつ"ハグ魔"だぞ。ニイならオリカも文句は言わないだろうよ」


 腕を組みながら僕に助言してくれた。"ハグ魔"? これまでそんな感じは全然見せてこなかったけど? 疑問に思っていると僕の顔を見てヒズルヒスが心の内を読んで回答してくれた。


「そこも人見知ってたんだろ。しっかし"とうちゃん"と来たか。オリカのパートナーだからそういう呼び方になるのかねえ」


 ニイがオリカを"かあちゃん"呼びしているのは浸透しているんだな。トーは僕を"おとうさん"と呼び、ニイは"とうちゃん"と呼ぶようになったってことか。


 チームSDGsの団結が深まるのはいいことだけど、呼び方は変えてほしいなあ。僕まだ独身だし。まあ、ひとまず引き離させてもらおうか。


 ニイの両肩に手をかけ、彼女を引きはがす。


「帰ったらオリカやトーにも報告しような」


「うんっ!」


 いい笑顔だ。いろいろ吹っ切れたみたいだな。助けになれてうれしい。


「いいシーンに水を差して悪いが……"帰ったら報告する"とか、そういうセリフを言って、大事件に巻き込まれるやつ、いるよな。お前はどうもそっち側の人間らしいな」


 ヒズルヒスがクイッと頭を傾けて、親指で僕の背後の方を指しながら半ば呆れたようにそう言った。


 確かに僕は"《枠力》高めなお約束、フラグ発動人間だけどね"と、心の中で独り言ち(ひとりごち)ながらそちらの方を向くと…………


 麦畑のはるか向こうの丘の方から、パッと見で百は越えていそうなバカでかいトンボ、〈不退転〉の大編隊がこちらに向かってくるのが見えた。


 僕がさっきのセリフ言ったから出てきたわけじゃないと思うんだけど、また、やっちゃったかー?



 《》 《》 《》 《》 《》



「やっぱりあの数はヤバイ?」


 正直言うとヒズルヒスもニイも〈不退転〉を割と簡単にやっつけていたので、数が増えても大丈夫かなと思って聞いてみた。


「ワタシたちは多分やられないが、こっから先には避難中の一般人もいるからな。"犠牲が少ないからオッケー"とはいかないだろ? 出来るだけここで数を減らす」


 ヒルズヒスの言葉を聞いてぶるっと身が引き締まる。そうだ、一緒に仕事をしたあのおばちゃん達、万が一にも一人でも欠けさせてはならない。


「おうっ!」「はいっ!」


 距離のあるうちにできるだけ、連携をとれるように素早く打ち合わせる。


「ひとまず、捕まらないようにガードを! 新入り! さっきの立方体の大きいの作れるか? 奴らは羽が邪魔になって中に入れなくらいの!」


 なるほど。その方法があったか。他の人に思いつかれたのは悔しいが、さすがベテランワーカーといったところか。


「了解! 『方体(キューブ)』!」


 一辺二メートル程度の『方体(キューブ)』をあたりにばらまいていく。このキューブの中に居れば、捕まることはないし、近くのキューブに素早く移動していけば、〈不退転〉の食い気を誘うこともできそうだ。


 だけど刀を振り回すには狭いし、拳を叩きこめるほど向こうも近づいてこれないぞ? 何か方法があるのか?


 高速で近づいてくる飛行編隊。ガチガチと音が聞こえそうなアゴの動きが視認できる距離になって来た。


「【フレイムワーク】! 【ツヴァイゼクス】!」


 ヒルズヒスが両手で銃のハンドサインを作ったのと同時にメギャンと拳銃のような形の【アクセサリ】が両手にひとつづつ現れた。


 両手に銃を構えた、アマゾネス調 《ドレス》姿の長身美女の背中がとても頼もしく見えた。

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