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水回り掃除の達人 その5

 動かない二人に対して、すぐさま心臓マッサージを行うことにする。


「「フッ! フッ! フッ! フッ! フッ!」」


 体にまたがって、トーと僕それぞれが力を込めて、ゴシンとユタンの胸骨をリズムよく押す。


 処置の間はオリカが風の壁でスライム達を押し留めてくれている。かなり《着力(きりょく)》を消費させてしまうが、現状ではこれがベストな布陣だと思う。


「がはっ!」


 蘇生措置により、なんとか呼吸は確保できた。しかし、まだあまり動かさない方がいいだろう。


「『ウインドブロウ』! あ、あれは何?」


 守衛中のオリカが何かに気付いた。遠方を指差す。


 そこには半透明の青いスライム達が何匹かいた。ついさっき、なんとなく似た光景を見たな。


 そう思いながら、その青スライムたちを見ていると…… ムニュン、と合体して普通のスライムより一回り大きい青半透明のスライムになった。


「え? 何あれ? 赤いのは説明されたし、見たけど、青いのは何? トーは知ってる?」


 オリカは知らない様子だったので、トーに尋ねた。だが、トーも知らなかったみたいだ。


「いや、私も初めて見る。〈不定形〉の色違いに見えるが…… 何だあれは?」


 僕らが疑問を話し合っているうちに、ピット内のあらゆる場所で赤、青それぞれの合体スライムが生まれていく。その勢いは激しく、見る間に普通の透明な〈不スラ〉はいなくなってしまう勢いだ。


 どんどん大きく色付きになっていくスライム達。そして、そのうちの青い一匹がトーに襲いかかってきた。トーは素早く"ツチ"モードの【バチツチ】を構える。


「『猛打衝』!」


 青スライムを大ハンマーでぶっ叩く。飛びかかってきたそいつはインパクトの瞬間潰れて打撃面にへばりついた。


 僕は次の瞬間には〈不化〉が解けて、色が抜けるのを想像した。赤スライムがそうだったからだ。だが、その予想通りには行かなかった。


 ブチュっというゼリーが潰れるような音と共に青いスライムが分裂して 赤一匹と青二匹になったのだ。 増えたそいつらの大きさは元と同じくらいある。


 おいおい体積が三倍になるのかい? 少しは慣れたと思っていたが、前の世界の道理との違いに、やっぱり驚いてしまう。


 その間に、トーが素早く追撃を仕掛けた。


「『猛打衝 打点2』!」


 分裂して増えた赤一匹と青一匹をそれぞれ先ほどと同じくらいの威力で叩く。すると、赤いのはボンッという音とともに合体が解けて透明な一回り小さなスライム達に分裂した。青いのはブチュッという音を出し、赤一匹と青二匹に分裂する。


「叩くと赤は消えるが、青は増える。減らせないな」


「さっきまで赤は赤二つに分裂するだけだったのに…… 混合で増えていくようになるとはね。厄介なことだ」


 トーが落ち着いて話してくれているし、先ほどの"慌てず、焦らず、急ぐ"という助言のおかげでパニックにならずに考えることができているが、解決策は思い浮かんでいない。このままいたずらにスライムを増やしてしまえば、このピットが埋め尽くされる可能性だってあるな。


 そうやって思考を巡らせていると、先ほど生まれた赤スライムと青スライムがビヨン、ビヨンと僕に襲い掛かってきた。


 動作は遅いが油断すると掃除人兄弟のようにやられてしまう。よく見て、【枠枠連棍】で攻撃を加える。


 ブニッと鈍い感触とともに棍が青スライムの"核"に当たった。するとキュッ! という音を立てて、青スライムが透明になって分離した。〈不可〉が解けたのだ。


 棍はその勢いのまま、続いて赤いスライムの"核"を打った。今度はブチュッと赤二匹と青一匹に分裂した。


 なるほどそういう法則か。


「オリカ! トー! 赤は全体、青は"核"を叩くと〈不化〉が解ける! 逆だと増える!」


「「了解!」」


「『ウインドボール!』」「『【枠枠連棍】突き』!」


 オリカは赤を、僕は青を攻撃しすることにした。それぞれに適した攻撃で〈不化〉を解きにかかる。


 だが攻撃が届く直前、立ちふさがるように、目標とは別の色のスライムが飛び込んできた。


「あっ!」「まずい!」


 攻撃は急に止まれない。そのままオリカは青に全体攻撃、僕は赤に"核"のピンポイント攻撃を打ってしまった。増殖する方の攻撃を受けたスライムたちはブチュッという音を出し、その数を増やす。


「ああっ! ごめんっ!」


「あちゃー。僕もやっちゃった。こいつらわかって仲間をかばいにきたっぽいな。ヒクイドリたちといい賢い奴多くない?」


「ちょっと落ち着きたいところだが、けが人を抱えて上の廊下に逃げるのは難しそうだ。何かアイデアはないか?」


「このままオリカの風でバリケードを作って、回復を待つ……」


 そう言っている途中で、ブチュッと音を立てながら目の先にいる赤スライムが分裂して二匹になった。


「のんびりそうしてるわけにもいかないのか。ほうっておいても増えるのね」


「そうだ、あれあれ、ヒデンでん、大きな木を囲ったやつは?」


「あ、あれか。ちょっと考える場所を作ることはできるかも。オリカ! スライムが入らないようにして!」


「がってん! 『ウインドブロウ』!」


 大きな木を抱えるように両腕を構え、オリカが広げてくれた空間に《枠》の(もと)をイメージする。


「いくよ! 『円柱(ピラー)』」


 ギュンと大きめの円柱状の《枠》を作り、それを何個か繋いで天井付近までの壁を作る。ミマツの木を囲ったときに比べると高さは低いし、《枠》容量的にもまだ余裕はある。


 これでひとまず、考えることのできる場所ができた。ほっとみんなで息をつく。


「うーん、さてどうしたものかな。このまま待ってても増えたスライムに押しつぶされる未来しか見えないんだけど」


 窒息は勘弁願いたいものだ。

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