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第17話 結婚を迫られてみる

三日目の晩、俺のつましいワンルームに襲撃者が出現した。


座敷童ではなかった。


座敷童の従姉妹の方だった。


やること同じやん。


「宇津木さん……」


考えてみれば、宇津木さんのマンションは夜中なんでよく見えなかったが、エントランスがゴージャスだったような?


場所から言っても、結構なお値段がするはずだ。


実は中には入ってないので、どんな部屋だかまるで知らないが、もし、入っていたら(多分、ただの事務員じゃないって事情を察して)結婚を申し込むだなんて大胆な真似はやらなかったと思う。


「どう言うつもりなの?」


宇津木さんが本気で怒っていた。

目がつり上がっていた。

いつもの冷笑ではなかった。


「あの……宇津木株式会社のオーナー社長のご令嬢だそうで……」


俺はすっかりヘタレて言った。


宇津木さんは、腕組みをしたまま、うなずいた。


「それがどうした?」


「だって僕、そんな大それたつもりじゃなくて……」


正座して宇津木さんを見上げると、手が伸びてきた。


「コラ、テメー」


宇津木さんが、俺の首元をネクタイとワイシャツごと掴み上げた。


「誰が僕だ。普段は、いっつもエラソーなことばっかり、言ってるクセに。結婚しようとか詰め寄ったクセに」


「だって、身分不相応なんだもん」


「何、しおらしいこと言ってる。どうすんだ、この落とし前?」


蓮ちゃん、コワイ。


さすがは、あの座敷童の従姉妹だけある。


「落とし前て、僕、まだ、そこまで何もしてませんけど……」


何もしてなかったら、徹底的にすればいいそうで、そんな……男は意外に繊細で、僕、そんなに自由自在なモノ持ってませんと抗議したかったが、襲い掛かられるとは夢にも思っていませんでした。

僕は無実です。

それから、宇津木さんは、細っこい割に、着痩せするナイスバディでした。……本当によかったです。




その二週間後、決死の覚悟で、ボーナス全額をはたいたスーツでお父上のところにあいさつに行きました。


キチンと正座して、顔を見つめ、土下座してお願いしましたともさ。


「お嬢様との結婚をお許しいただきたく……」


てめーんちの娘が、俺のワンルームに居座って出てかないから、こんなことを言う羽目に。




その頃、FKビルは上から下まで、逆玉男の噂で満ち満ちていた。


俺は朝から同伴出勤を強いられ、まさか社長の娘を邪険に扱う訳にもいかず、昼飯も一緒に食べ、帰りも……


「ねえ、どうして俺ン家に来るわけ?」


「生半可なことじゃ、お父ちゃん説得できないからよ」


あの田舎から出てきて、一代で財を成した傑物は頑固者かつ娘を溺愛しているそうで、既成事実をしっかりと作らないと説得できないそうである。


「しっかりと……って……」


既成事実って、俺が主犯なの?違うよね、蓮ちゃんが主犯だよね?


「あの、俺、そんなハードルの高い嫁……」


要らないんですけど、と言いかけて、これを言うと、激怒する蓮ちゃん&蓮ちゃんパパに、社会的に抹殺されることに気付いた。

つまり、逃げ場はない。



こんなことになるとは、想像したこともなかった。


社長は小柄でなんとも言えない目つきの男だった。そして娘の結婚に賛成も反対もないらしかった。


「ホホホ。どんなに先読みしたところで、先のことなんか、本当はわからない。どうしようもないのよ。主人はまだ若いから、孫の世代まで、猶予があると思ってるの。それに今時の若い人の結婚にケチなんかつけられないわ」


お義母様が出てきて、手ずからお茶を出してくださり、さらにホホホと笑ってギロリと俺を見て、こう言った。


「がんばってね」


「私がいるわよ。まあ、がんばってね」


蓮ちゃんも言った。

だけど、まあって、どう言う意味なの?蓮ちゃん。

どうせ、社長の代わりなんか無理だろうとか思ってない? 俺のこと、なめてるでしょう?




真壁仁、三十歳。


人生の正念場であるとともに、今までチャランポランにサラリーマンをやってきたツケを払う時がきた。


すでにこれまで勤めてきた会社には退職願を出してきた。出さざるを得なかった。宇津木株式会社とライバル関係になる部門があるからだ。


どう考えても、あの座敷童より、こっちの娘の方がタチが悪いんじゃないだろうか……



ええ、もう冗談でもなんでもなく。


蓮ちゃんは、どうせ無理でしょみたいな顔してるけど、違うからね。君だって、俺のこと、知らないんだ。



人間、自分のことはわかってる。


誰にも言わないけど、どっかしらんで自分のことは測ってる。


なんとかなるさ。何とかする。社長でも何でもやってやる。


そして多分俺は出来る。


そう。結婚したら、本気出す。


蓮ちゃん、君のために。








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― 新着の感想 ―
[一言] スローライフを考えていたのですが、急に貴族の出世物になった感じですね。笑 主人公も自分が興味がなければ他のことは気にしないタイプのようですね。意外と平凡な女性に会ってもきっかけさえあれば大…
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