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第16話 最初からあったけど気がつかなかったモノ

金輪際、関わりたくなかったのは、あの座敷童の方であって、俺のことではなかった。


そりゃそうだ。


俺は割とイケメンだ。別に不満はないはずだ。


だが、公式初デートで、メガネを取って出現した宇津木さんに、俺は目を剥いた。


座敷童に似ている……じゃなくて、宇津木さん、美人。


「美人に決まってるでしょう? 今まで何見てたんですか?」


俺もさすがに首を傾げた。


俺、今まで何を見てたんだろう。


「……メガネかな?」


いや、なんとなく美人だと感じていたんだと思う。


「クソ鈍感な」


「いや、あの、宇津木さんの美貌ではなく、中身に惚れたんです、俺は」


ツンとすると、細くて高い鼻と上品な口元が目につく。

こっちを向くと、目元の美しさに気がついた。

パーツ一つ一つを目で追うと、宇津木さんが頬を染めた。


ピンクの頬。


反則である。

あざとすぎる。


なんか感じは悪くないとか、まあいいんじゃない?とか、とにかく悪感情にならなかった理由は、これか……


美人、恐るべし。ナスを打ちのめすとは……




なんでメガネなんか掛けていたのかと言えば、


「目立ち過ぎるから」


と、おっしゃる。


まあ、どうでもいいけどね。


妙なご縁かもしれないけど、俺は三十歳をめでたく彼女付きで迎え、そして結婚になだれ込むつもりだった。


他の誰にも渡さないぜ。


うん。今では、本気でそう思っている。

仕方ない。認めよう。宇津木さん好きだ。


「蓮って、言うんですけど」


つまり、名前呼びしろと言いたいんだな。よろしい。ちょっと交換条件があるけどな。


「仁って呼んでくれる?」


俺は、ニンマリした。そして、宇津木さんのあごを指でつついた。




その後、職場のビルの一階のロビーで、三宅に会った時、俺はいかにも当たり前みたいな調子で、結婚すると伝えた。


「もう、そんな歳だしな。そろそろ考えなきゃと思ってさ」


なんでもなさげに、俺は言い切った。


「へえ……」


三宅は感嘆したように、俺を見つめた。


「すげぇな、お前。あんな会話でお前が嫌われないってのが、不思議だったけど、結婚にまで持ち込むだなんて」


それは宇津木さん、いや蓮ちゃんの返事を知らないからだ。俺より酷い。


「それに俺がいくら言っても、責任負うのが大嫌い、出世には興味がないって言い切ってたのに、随分な転身ぶりだな? 覚悟はいいんだな?」


覚悟?


確かに結婚は責任重大かも。

でも、人口の何割か、かなりの人数がやってることだ。

そこまでの覚悟はいらねーだろ。

出世は関係ないし。

まあ、子どもでも出来たら出費も多くなるだろうから、仕事も頑張らなくちゃいけなくなるかも知れないが。今みたいな手抜きはダメかもな。


「将来は社長か。すげーな、真壁」


は?


社長?


「社長?」


俺は三宅のセリフをそのまま繰り返した。三宅は意味ありげにうなずいた。


「そう。社長」


三宅は、吹き抜けのビルのエントランスの壁に取り付けられている、FKビルの入居企業一覧を指した。


「最上階」


スチール製のネームプレートが入っていた。結構な一流企業ばかりだ。

まあ、俺の会社もその中に含まれちゃいるが。


最上階は、ローマ字で載っていた。

読みづらい。


UTSUGI Corporation


ウツギ コーポレーション


うつぎ 株式会社……?


宇津木?



「宇津木さん?」


三宅がまじめくさってうなずいた。


「オーナー社長の令嬢だが」


「令嬢?」


俺の大声は吹き抜けのエントランス中に響き渡った。

三宅があわてて俺の口を塞いで、外へ連れ出した。


「知らなかったのかよ?」


あまりのショックに俺はコクコクと首を上下に振るしかなかった。


「知ってんじゃなかったのかよ。大物喰いに行くなあって思ってたけど」


今度は左右に首を振った。

知らなかった。

まったく知らなかった。


三宅がちょっと面白そうに笑った。


「え? 結婚するって? 逆玉もいいとこだな」


俺は本気で心臓が喉元から飛び出そうだった。


そんなつもりじゃなかった。

そこらで出会った、ちょっとばかり美人だけどおそろしく口の悪い事務員と、あの田舎の家の縁側みたいに、目立たないけど平凡な幸せを紡ぐつもりだったのだ。


「むっちゃ目立ってましたけど?」


何言ってるんだと、三宅が言った。


「え?」


「だって、あの宇津木さんを、昼食デートに持ち込んだ男がいるって、噂になってたぞ?」


「え!」


そんなつもりじゃ……と言いかけたが、とりあえず三宅の話を聞くことにした。


「公園でも話しこんでいたし。まあ、お前は見た目だけはいいからな。背も高いしな」


「宇津木さん、そんなこと考えてないと思うけど」


いや、わからん。なんで結婚を了承してくれたんだろう。


「まー、がんばれよ? 一人娘だしな」


「ええっ?」






俺はそのあと三日間、宇津木さんに連絡をしなかった。ショックのあまり。



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