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第15話 結婚を迫ってみる

俺は呆気に取られた。


そうじゃない。


いや、話の筋は通っている。


そうだ。


宇津木さんが俺を悪くないと思っているなら、それで全部話は済みだ。何も話すことはない。


でも……俺の気は済まない。


なんで?


「それより、真壁さん」


宇津木さんは情けなさそうに言い出した。


「これ」


そう言うと、目の前の畑を指した。


「どうするんですか?」


「えっ?」



ナス畑。


それは見るも無惨だった。


「水やり、どうしたんですか?」



俺は畑を見た。


枯れている。


「あ……」


ナスを忘れてた。ナスを。


「真壁さんにナスは無理ですよ」


横で、宇津木さんが薄ら笑いしていた。ムカつく。


「こんなに遠いのに家庭菜園だなんて。プランターか、やっぱスーパーでしょう」


俺は気がついた。



なんでこんなことになったかってことだ。


先週、ナスの水やりを忘れたせいだ。


何で忘れたかって言うと……それは、あの事件のせいじゃない。


「宇津木さん」


振り返った。宇津木さんはまだ薄ら笑いを浮かべていた。


うん。


これでこそ、宇津木さんだ。


ケチで嫌味で、口が立って、いつでも自分が正しいと主張してやまない。俺のことなんか、気にもしてませんっていつも言う。


だけどな、俺は知ってる。


あんた、俺があの座敷童に酷い目に遭わされることを心配して、ついてきてくれた。


断ることだって出来たんだ。


あと、も一つ、わかってることがある。


俺だ。


そうだよ。俺だって、なんだかんだ言って、無理してあんたを誘った。


大好きな、秘密のこの庭へ連れてきたがった。


嫌われてると思うと、頭がいっぱいになって……ナスを忘れた。



この世の中に、ナスより大事なものがあるだなんて。


「帰りましょう」


いやダメだ。


「宇津木さん」


俺は声をかけた。ここがいい。この場所で言わなくちゃ。


「俺とつきあいませんか?」


宇津木さんはかなりビックリしたらしかった。

しかし、案の定、薄ら笑いが深まった。


「え。だって付き合う理由がないし」


「理由ならありますよ」


冷然と俺は答えた。


「ナスを枯らしたのは宇津木さんのせいですからね」


「なんで?」


「ナスより宇津木さんの方が重要になってしまったからです」


早口になってしまった。恥ずかしいな。


「あと、もっと重要なことはですね」


俺は宇津木さんに近づいた。


「うんって、言わない限り、帰れないことですよ」


宇津木さんはギクリとした。


俺は宇津木さんの手を握った。


肉体言語だ。


「付き合うのを了承しない限り、夜が明けるまでここにいますよ」


「げ?」


反対側の手も取った。


「うんと言うまで、ずっと」


うん。夕闇が広がり、月が出て、星しか見えない夜になるまで。


そんな夜中にやることったら、決まってるだろう。


「警察を呼ぶわよ……」


俺はしたり顔で言い返した。


「圏外です」



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[一言] 秘密の花園ならぬ、秘密の茄子園?
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