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第14話 最後の現場検証

話はえらいことになり、俺は宇津木さんを連れて何回も地元に帰ることになってしまった。


「宇津木さん、ごめん」


仕方がないから、俺は謝った。


本当は悪いのは、座敷童である。俺ではない。


それから、本当の被害者は、フランツこと俺であって、宇津木さんではないと思う。宇津木さんのは、もらい事故だ。


だが、それでも、俺が形だけでも宇津木さんに謝ったのは、ひとえにあの座敷童のせいである。

俺がナスの水やりにこだわって、彼女をあの場所に連れて行ったばっかりに、座敷童の脳内で不当な真実の愛物語が瞬時に設定されて、嫉妬に狂って包丁投げ事件に発展してしまったからだ。


事件の原因が、フランツの裏切りのせいだとか、痴情のもつれとか言い張るのだ。


警察署で、目の座った座敷童が「婚約者の王太子フランツ殿下の浮気で」と言うたんびに、警察署内で押さえた失笑が広がるので、怒りがたぎった。


「まあ、君、カッコいいしね。男前だし」


取ってつけたようなお世辞を、笑いをこらえられない小太り中年の田舎刑事が言うので、余計腹が立った。


宇津木さんは、途中入社してきた名ばかり男爵令嬢で、カトリーヌ・ルイーズロッテ・メルセデス・キャサリンになっていた。覚え切れん。


「何人?」


思わず刑事に聞いてしまった。知ってるわけがないよな。


「外人……かな?」


うん。外人なのはわかってるけど……警察も忙しいもんね。そんなこと、いちいち突っ込まないよね。


唯一の救いは、座敷童のヤローは重犯らしく、警察は最初っから俺たちのことは被害者だと疑いもしなかったことだ。



この傷害事件のあと、宇津木さんは、猛烈によそよそしくなった。


まあ、当たり前だ。


俺がナスにこだわったばっかりに、水やりに付き合わされ、包丁を投げつけられたのだ。嫌われても仕方ない。


「二人は恋人じゃないんだよね?」


警察、聞くな。


「知人ですらありません。潤夏ちゃんに絡まれてはいけないので、知っている以上、注意しただけです」


「そうだよね」


「今後、金輪際、関わりたくありません」


そこまで完全否定しなくても……

俺が悪いわけじゃないってば。


「うん。そうだよね。散々だもんね」


警察も、事情をよく知らないくせに、そこで深くうなずくな。


最後に宇津木さんと一緒に出かけたのは、最後の現場検証の時だった。


どうしても行かなきゃならなかったので、俺のクルマでナスの庭に行くことになった。




クルマの中で、宇津木さんは黙りこくっていた。


あれっきり、話すらできない日々が続いていた。


俺は全然悪くはないんだけど、ビルで見かけても、宇津木さんは知らん顔だった。


ひでぇ毒舌だと思ってたけど、いい人だったよな。だって、あの座敷童についてちゃんと注意しようとしてくれてたんだ。


俺のことを気にかけてくれてたんだ。なのに、あんなことになっちまって……

お詫びに高級レストランで散財してもいいんだがな。

変なジャージに男物のボロいカッターシャツ着てても、宇津木さんは立派な女の子だった。


連絡先は知ってるけど、誘いたいけど、きっとものすごく冷たく断られるよな。


だから、警察からのお呼びはかなり嬉しかった。これは断れない。


最初、一人で行くと宇津木さんは主張してたが、なにせクルマなら高速で一時間だが、電車で行くとなると乗り換え込みで三時間かかる。

ガソリン代をもとうと破格の申し出をすると、ちゃっかり乗ってきた。

さすがは宇津木さんだ。ケチい。


「あのう、宇津木さん……」


俺は話しかけてみた。


返事はない。


返事くらいしてよ。


「そんなに怒んないでよ。ケガも大したことなかったし、包丁投げたの、俺じゃないよ」


ずっと黙ったまま、一言も話さないまま、最後のドライブは終わってしまった。


俺は無実なんだから、そこまで冷たくしなくてもいいと思うんだけどな。


警察はむしろニコニコしながら、形式的な質問を繰り返して、その度に宇津木さんはものすごく素気なく、「ええ」とか「はい」とか返事していた。


そしてあっという間に現地における最後の検証と尋問は終わって、帰っていいよと言われた。


「私らは先に帰りますんで。どうも失礼しました」


うおー、助かった。二人きりになった。


俺のクルマだ。


帰る時間は、俺が決められる。


ディナーをオーケーしてもらうんだ。

でないと気が済まない。


「結構ですよ」


ソッコー、断られた。


「で、でも……」


「大体、そんなのどうでもいいでしょ」


「そんなの……とは?」


「高級レストランとか。行きたければ、自分で行きますし」


「一人で?」


「いいえ。父でも母でも」


ええっ? 割と太っ腹なんだ、宇津木さん。


「何か勘違いしてるみたいですけど、私、おごってもらう側ですからね?」


「えー、そうなの? うち、かーちゃんにそんな話ししたら、絶対、出してもらう気満々で乗ってくるわ」


「それぞれの家庭は違いますから。それはそうと、帰りましょう」


「ねえ、宇津木さん」


仕方がないな。どうしてこう手間がかかるんだろう。俺は謝りたいだけなのに。


「気が済まないんだ」


宇津木さんがギロリと俺を睨んだ。


「しつこい」


「え?」


「謝罪は受けましたよ。それに、あなたが悪いなんて思ってませんよ。悪いのは、潤夏ちゃんです。多分、一生あのまんまでしょうけど」


「うん……」


「だから、一緒に食事なんか行かなくていいです」



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