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第12話 直接対決?!

道路は空いていたし、天気は予報通り快晴だった。


全く文句はないはずだったが、隣の席からは緊張感が……なんて言うんだろうか。

死ぬ死ぬ詐欺型座敷童の存在感を打ち消すほどの緊張感が漂ってきていた。


宇津木さん、そんなに深刻になるような話じゃないのに。


俺があなたの部屋に入ったところで、ゴキブリのお宅訪問程度に思ってくれたらいいだけですよ。


本人もわかってるはずだけど、なんかしたわけじゃないから。ほんとは部屋なんか入ってないし。


なんだか、今更、真相を話して弁解したら余計に激怒されそうで、怖くて言えませんけど。


しかも宇津木さんは変装をしていた。


「あの、宇津木さん……」


むっつりと黙りこくり、無駄な緊張感を漂わせている彼女に話しかけるのには勇気が要ったが、どうしても知りたいことがあった。


「あの、どうして、今日はそのカッコなんでしょう?」


宇津木さんがジャージ姿で来てくれたら、まだよかったのにと思った。少なくとも理解できる。何しろ、用件は水まきだから。


彼女はなんだかよく分からない、どこから持ってきたのか、ドボドボのサイズの合わない汚れ深緑のトレーナーの上に、薄汚れた白のワイシャツを引っ掛け、こげ茶色のズボンをはいていた。足はおっさん用のツッカケ(スリッパ?)だった。多分、全部古着だ。更に頭巾のような帽子を手に持っていた。


俺は横目で眺めて、このファッションは、なんなのか考えてみた。


足以外は兼業農家のオッサンが着ているような気がする。


都市近郊の平日サラリーマン、土日農家のオッサンが、仕事着のワイシャツがボロくなって着られなくなった時、日除けかなんかに使っているのを見たことがあるような。


でも、足元が変だ。濡れてもいいように、サンダルなんだろうか?


それに、どっから買って来たんだろう。真剣にわからなかった。


くるりとこっちを見た宇津木さんは……運転しているので、顔を見るわけにはいかなかったが、確実に何かの種類の殺気を帯びていた。


「バカなの?」


俺は亀のように首を縮めた。


「だって、俺が水をやらない方がいいって言ったの、宇津木さんじゃん」


「フランツが水やりに来たら、ナスじゃなくて自分に会いに来たって思われるから、止めとけって教えてあげたのよ」


ものすごく上から目線で言われた。


「そもそもナスごとき放っときゃいいのよ。あれは、スーパーに生えるもんなのよ!」


少々の苦情なら、俺の田舎へ無理やり連行している手前、我慢もするが、この暴言は許せない。


「ナスは驚くべき美味な夏の食材。特に油との相性はバツグンだ」


「だからなんなのよ! 焼きナスの方がおいしいわ。大体、何でそこまで、ナスをあんな田舎で育てる理由があんのさ。プランターにしなよ、プランターに!」


プランター!


わかってないな。絶望的なまでにわかってない、この女は。

豊かな自然の中の思い出の場所。しかも俺の所有地だ、あそこは。

俺の好きなようにやって何が悪い。


ドライブの間中、宇津木さんは俺に食ってかかり、俺は防戦した。


着いた頃には、すっかりカッカしていた。


「さあ、今から、水撒きするんだ!」


「うっさいわね! 何で私が水撒きしなきゃなんないのよ!」


彼女は荒々しくクルマのドアを開けて外に出た。そして作業に取り掛かる。


しかし、この女、本当に手際が悪い。


見ているだけでイライラする。


モタモタしている。農家のオッサンの身なりを真似てるだけで、動きは全然ダメだ。要領悪い。


外に出ては行けないと厳命されたので、やむを得ずクルマの中から監視していたのだが、本気でイライラしてきた。


挙句、(うね)にすっ転んで泥だらけになるのは自業自得だとして、水を()いた後の畝の間に転がり落ちた時は、さすがに腰を浮かせた。


「大丈夫か?」


おでこにまで、泥をつけた彼女は目を爛々と光らせてささやいた。


「なんで出てくんのよ、フランツ」


「は?」


「潤夏ちゃん、どっかで見てるかも」


「え?」


俺はキョロキョロした。人影はない。


「大丈夫だよ。それより……」


だが、俺の声は、キエーとか言う謎の奇声で(さえぎ)られた。


「ひどいわ。婚約までしていたのに!」


例の座敷童だ。(多分)


俺は首を回して、現実を確認しようとした。


ふわふわのワンピース様の衣料品と見られる扮装をした、異様なモノが近づいてくる。やめて、来ないで。本能が叫んだ。



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