表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/17

第11話 ナスは自殺未遂より重要に決まっている

「でもさー、頼むよ。あの女子高生もどきに会ったらマズイしさー」


宇津木さんは開き直った。


「いや、困るのは真壁さんだから、私は別に?」


「でも、わざわざ教えてくれたじゃないの。行かない方がいいって」


「そりゃ、真壁さんがフランツ呼ばわりされて、あちこちにラインとかツィッターされてる実態を考えると、出来るだけ行かない方がいいとは思うけど、好きにすればいいんじゃないですか?」


「ラインとツィッター?」


俺は眉をしかめた。


「ラインとツィッター」


宇津木さんはケータイを指した。


あほか。俺だってそれくらい知ってるわ。そうじゃなくて、あの女子高生型座敷童がツィッターで何ツィートしんのかってことだよ、知りたいのは。


「いきさつを送りまくってるから」


「いきさつとは?」


「フランツとの出会いと、どんなふうに恋が進んだか、そして手ひどくフラれて、死を選んだとかなんとか」


「マジで俺がフランツ役なのか?!」


「真壁さん、無駄に顔がいいから」


「無駄は余計だ、無駄は」


「モテるんですか?」


「妻子がいるわ。モテても意味ない」


「はあ……離婚したんですか?」


「なぜ、そうなる?」


「土日、ずっと菜園にかかりきりだから、独身かと思ってました」


「………」


体が悪いんじゃないかと思わせられるくらい細いのに、妙に鋭い。


「それはどうでもいいんですが、とにかく、水やりは嫌です。ナスの生死なんか知りません。別にフランツとの恋物語に続編がついたって、私には関係ないですし、真壁さんが好きにすればいいと思います」


「……あの女が、今週はウロウロすると?」


「そりゃそうでしょう。えっとですね」


彼女はケータイをごそごそ触って、見せてくれた。


『死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ。死ぬしかない。最後にフランツの顔を見てから、死ぬ』


死んでも全然かまわない。むしろ、死んでほしい。


「まあ、死ぬ死ぬ詐欺ですよね。何回もやってますしね。潤夏ちゃん、文才ないしね。なんせ、フランツですしね。日本人の名前じゃないし、みんな実在の人物だなんて思ってないかもね」


「みんなって?」


「ラインとツイッターで絶賛拡大中ですね。ネーミングのフランツ、ウザすぎでウケてます」


……俺は沈黙した。


ナスと女子高生型座敷童を天秤にかけた。


「宇津木さんが行ってくれさえすれば、解決するのに」


「嫌ですよ。ナスなんかのために。真壁さん、馬鹿じゃないですか?」


俺はむっとした。


しかし、ナスは水をやらねば枯れてしまう。


「大体、3時間もかかるんですよ? 往復で6時間。あほじゃないですか」


黙って聞いていれば言いたい放題……


「クルマなら往復2時間だ。高速通って。レンタカーと高速代は出そう」


「クルマ、乗れません」


「免許ないのか」


「あっても乗れません。高速みたいな危険なとこ、走れるわけないじゃないですか」


「高速の方が断然安全だ。そこらへんの交差点の方がよっぽど危ないわ」


宇津木さんは肩をすくめた。


「まあ、お好きなように」


そう言って、席を立とうとした。


「よし、仕方ない。俺が運転してってやろう」


ものすごく妥協せざるを得なかった。本来一人で行くはずだった。余計な荷物を乗っけてかなきゃならないとなると、燃費が悪くなる。


だが、宇津木さんは馬鹿にしたような笑い声をあげた。ムカつくな、この女。


「ハッハッハ。とんでもありません。自分で行ったらいいじゃないですか。なんで私がナスの水やりに付き合わなきゃいけないんですか? 知ったこっちゃないですよ」


気づかれたか。


「迎えに行ってやる」


彼女が不審な顔をした。


「迎え?」


「南大江のとこのマンションまで行ってやる」


宇津木さんが顔色を変えた。


「なんで知ってるんですか」


「入れてくれたじゃないか、夕べ」


仕方ない。ナスのためだ。大義の前に些事は嘘をついてよいと聖書に書いてあった。ような気がする。


「あ、言われたくないなら、水やりして」


宇津木さんが顔色を変えた。今度は赤い顔だ。


「奥さんいるんでしょう? なんてことを」


いえ。あの。独身ですが。


あと、マンションには入っておりません。ちょっと、口が滑った。


なにか、今、大惨事を引き起こした? 口は災いの元ってやつ?




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

↑にある☆をクリックして5個にして応援してもらえると励みになります

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ