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第六話   買い出しと悪友とクラスメイト


「いってぇ……」


 街を照らす太陽が高く上った時間。

 裕介はメアに引っ掛かれて痛む体に鞭を打ちながら家を出て、住居がある第七居住区から一本のバスで行くことが出来る第九商業区にやって来ていた。

 マンションやアパートが立ち並ぶ住宅街である第七居住区とは違い、商業を目的とした特区であるためか目を向けた先々に食指を刺激するような物を売る店が多く立ち並ぶ。

 裕介の目的地は第九商業区でも一番大きな大型ショッピングモール『ファクトリア』だ。このファクトリアでは食料品から娯楽品、衣服や少しアダルト向けの商品など多種多様な商品が販売されており、、取り扱っていない物を探す事の方が難しい。


「え~…っと、確か洋ナシの宝石タルトだったか?……どこに売ってんだ?」


 裕介がファクトリアの出入り口横の壁に取り付けられている巨大な施設案内板の前で足を止め、目を(しか)めながら目当ての店を探す。

 そもそも裕介がファクトリアにやって来たのは裕介自身が何か必要な物があったからでは無く、今朝の出来事で機嫌が悪くなった同居人メアの機嫌を直すために、メアの好物である流行りのスイーツを買いに来た事が理由だ。

 更に裕介自身がインドア派の人間であり、余りこの手の商業施設を訪れる事も無かったし、あったとしても目当ての店で目当ての物を手に入れたらそそくさと自宅へ帰ってしまうため、余り施設内の店や地図などには明るくないのだ。


「あ~……あ?何でケーキ屋が六軒もあるんだ?」


 施設案内板に直接指を突き立てて、滑らせた指を追うように視線を案内板へと這わせるが、メアが言っていたタルトが売っている店が見つからない。

 それらしきケーキ屋はあるものの、同じ様な店が複数店舗存在している影響でどの店に向かえば良いのかがわからない。

 最も、大規模なショッピングモールには似た系列の店が複数並ぶ事はよくある話なのだが、インドア派かつスイーツにそこまで興味がない裕介にとってはどれも同じ店に見えてしまうのだ。


「とりあえず全部見てみれば……」

「よっ!お前がこんな所にいるなんて珍しいな!」


 考えても仕方がない、とポケットから取り出したスマホで時刻を確認しながら呟いた裕介の肩に、背後から伸びてきたガッチリとした腕が回され、明るめな声が耳に飛び込んでくる。

 突然肩に回された腕に驚きながら裕介が視線を声の出所へと向けると、そこには赤色に輝く髪を整髪料で固め、ヘラヘラと笑みを浮かべる見知った顔があった。


冬也(とうや)……?お前こそ何でここに…ってあぁ、そういう事か」


 火代(ひしろ)冬也(とうや)。裕介と同じく夢原学園に通う男子高校生であり、同じクラスで授業を受けるクラスメイトであり校内では何かと行動を共にすることが多い所謂悪友だ。

 冬也はショッピングモール前で裕介を見かけた事に驚いていたが、それは裕介にとっても同じだ。冬也もショッピングモールで暇を潰すような奴ではないだろう、と考えたところで冬也が左腕に付けている腕章を見て冬也がここにいる理由を察する。


「そ、保安部(ほあんぶ)の仕事でここ見回ってんだ。美月も一緒だぜ」

「休日もか?お前らも大変だな」

「まぁ金貰えるし、バイトみたいなもんだよ。お前もやるか?」

「やめとく」


 片手をポケットに手を入れたままニヤニヤと笑い、腕に取り付けられた保安部の腕章を見せつけてくる冬也。

 ちなみに保安部とは進歩特区内の治安維持を目的にした組織であり、警察ほどの権力は無いがトラブルの際は住民の非難やトラブルの対処に協力するのが仕事だ。

 魔術が一般化したこの特区では治安維持や犯罪への対応に他の国よりも多くの人員が必要になる。やろうと思えばどこであろうと超常現象を引き起こして他人に危害を加えられる魔術の悪い点とも言えるだろう。


「そうだ、丁度良かった!なぁ、洋ナシの宝石タルトが売ってる店って何処か知ってるか?」

「ホウセキタルト?何だそれ、初耳だ」

「だよなぁ……」


 (わら)にも縋る想いで冬也に目当てのスイーツが何処にあるかを尋ねてみたが、冬也もスイーツなどの甘味料には興味が薄いためか全く知らないと小首を傾げていた。

 元々期待はしていなかったが、こうなると自分の足で探すしかないだろう。

 そう諦めて足をファクトリアの出入り口へと向けようとしたところで、丁度出入口から出てきた見知った顔と目があった。


「ちょっと冬也、アンタ何サボって……って裕介?何でアンタがここに……」

「その話さっきやったよ」

「ちなみにやりはしたけど答えは返って来てないぜ?」

「あれ?そうだっけ?」


 短い黒髪をハーフアップにした、不機嫌そうに口をへの字に曲げた少女、神楽坂(かぐらざか)美月(みつき)

 不知裕介と同じく同じ学校、同じクラスに通うクラスメイトであり、火代冬也と同じく保安部で働いている女子生徒だ。美月から見ても裕介がここにいる事は予想外だったようで、口を半開きにしながら目を丸くしている。


「いや、洋ナシの宝石タルトってのを買いに来たんだよ。丁度良かった、美月お前何処に売ってるか知ってるか?」

「宝石タルトォ?アンタが?頭でもぶつけたの?」

「食いたがってんのは俺じゃねぇよ」

「ふぅん……。まぁ、別に良いけど。それなら三階のエレベーター近くの洋菓子屋で売ってるわよ。黒と白で目立つ外観だからわかると思う」

「店名は?」

「小難しいフランス語だけど、アンタ覚えられるの?」

「……いや、覚えても読めないな」

「そ、だったらエレベーター近くの黒と白の店って覚えときなさい」

「そうするよ、ありがとな」


 何が不満なのかわからないがムスッとしながら目当ての店の場所を教えてくれた美月に礼を言いながら出入口へと向かう。


「じゃ、また明後日学校でな」

「おう」

「はいはい」


 出入り口の自動扉を開いたところで、後ろを振り返って冬也と美月に別れを告げる。

 保安部の仕事中という事なら、これ以上邪魔をする訳にはいかないだろう。それに目当ての店を見つける事も出来た以上ここに残る理由もない。

 そう考えた裕介が音を立てながら開いた自動ドアの中へと消えていった。


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