嘘のつけない酒乱令嬢
初めまして。
アルコール度数3%くらいの軽い短編です。
煌びやかなシャンデリアの下、今夜の夜会も荒れに荒れている。
いつも嵐の中心には僕の婚約者であるメアリー・フェノール侯爵家令嬢。
ごっごっごっ
「っは!あなたのお家はどこでちゅかーって迷子なのは貴方の緩い理性でしょう?ご両親の爵位しか誇れないような知性のなさと緩いベルトしかないのなら最初から全裸で参加しなさいな」
ごっごっごっ
「そしてそんな全裸男に迫られるまで危機感もなく誰か助けてくれるの待ちな貴女もそんな甘い考えで社交界を泳ごうなんてしているから周りに人がいないのよ関るだけ損じゃないの」
「あと私は関係ないわなんてすました顔しているそこの3人組のお嬢様、少しは全裸子爵長男のこと庇いなさいよ全員その緩いベルトの下にお世話になっているんでしょう?…ぷはぁっ、あら、お互いご存知なかったの?じゃあもしかしてそこの子爵の跡継ぎが次男になったのもご存知ないのかしら?」
ごきゅっ
「ふぃ~~、あぁ~~~あれ?全裸長男、顔色悪いわよ?廃嫡のカウントダウンが始まったの気づいてなかったの?」
きゅぽんっ どばどばどばどばどば
ごっごっごっ
「あんなに分かり易い高位のお忍び令嬢、しかも他国のお嬢様を商家の平民と勘違いして手篭めにしたらどこの土地に埋めるか家族会議どころか国際会議になりましょうに。週7日替わりランチだなんてバカな遊びを満喫するよりも早く逃げたほうが良いのではなくて?」
「はいっ!メアリー今夜はここまで!ね!もう酔い過ぎて倒れそうだよね!?」
「何をおっしゃるのまだボトル4本も開けていなくてよ、まだ飲め」
「ああっもう飲めないよね!申し訳ございませんが私たち今夜はこのあたりで失礼させていただきますね!」
「やだディーンせめてあの幻の64年の赤ぁあぁぁぁーーーー!!!!」
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「…いらっしゃい」
「ごきげんようディーン様」
「二日酔いは大丈夫?」
うふふと笑顔で大事ないことを伝えてくれるメアリー。
馬車の中でギャン泣きするもんだから仕方なく途中でリカーショップに寄り、追加で3本与えても翌日に残らないのは素晴らしいが、残らないのは酒だけではない。
「それでアーダスト子爵家のご令息の生死はどのように?」
…心の底では全裸男って思ってるんだよな。
「昨日の今日だからまだ決定はしていないようだけど、騒ぎで逃げそびれたのが功を奏して死罪は免れそうだよ」
「それはようございました」
…本人は生き恥を曝すことになるのは当然として、国の法を無視し内々で処理するはずだった私刑も出来なくなり…。子爵家の行く末、領民の暮らしを思うと、メアリーのように晴れ晴れとした笑顔は僕には出来そうもない。
フェノール侯爵家は…700年続く由緒正しい家。
それだけ血を繋げ、存続していくための人脈や人材が多く居り、古く歴史のある話や…新鮮な、それはそれは生々しい情報も集まりやすい。
普段は穏やかな令嬢だけれど、生まれてからずっとありとあらゆる情報に触れてきた彼女は飲酒をするとダムの放水のごとく決壊する。いっそ嘔吐するほうがマシなんじゃあないかと思うくらいに。
本人いわく、1杯200ml飲酒後は全く記憶にないらしい。
夜会では商売や政策に恋愛子育て健康…何らかのアドバイスが欲しい人間がつい彼女に飲み物を与えてしまう。
彼女自身は少しも酒癖が悪いなんて自覚はないので、ほんの少し口を滑らしている事実だけ、僕や彼女の友人がやんわり伝えている。
「人は簡単に死んではなりませんからね」
社会的には死んだけどね、全裸子爵。親子共々。
「僕も長生き出来るよう頑張るよ」
「あら、私が愛するディーン様を早死になんてさせませんわよ?」
「未だに僕のどこがいいのか謎なんだけどな」
「あなたほど情に厚く視野の広い男性はこの世に2人とおりませんし病める時も健やかな時も酔っている時も私に寄り添い愛してくださるのはあなただけです…って」
頬を染め口元を押さえるメアリー。
「…この紅茶、もしかして何か盛りました?」
もちろん。ブランデーを1滴だけね。