chapter 4 感情のままに吠える獣の強がり①
私は今、駅前の寂れた小さな本屋の前にいます。学校で一方的に約束をしていった名和さんと会うために。
でも、やっぱり帰ろうかなって思ってる。迷羽さんのことは知りたいけど……、名和さんから聞くのはよくないよね。それに私は完全に名和さんを信用したわけでもないし……。
名和さんが来たらごめんなさいって謝って今日は帰ろう。あ、でもその前に名和さんは来ないかもしれないよね。嘘ってことも考えられるし、少し遅れてきたつもりなのにまだ名和さんは来てないみたいだし。そうだ、前に迷羽さんにひどいことをしてるのも見たりしたことあった気がする。うん、今日の私はどうかしてたんだ。迷羽さんのことを知りたいからって名和さんを頼るのはどうかしてるよ。きっと心が浮ついてたんだと思う。もう少しして来なかったら帰ろう。考えるときの癖で下を向いていたからわかった。数人の影が急に増えたことに。
「よう。姉ちゃんだろ? ミヤビっていうのは」
「だ、誰ですか、あなたは」
知らない声から私の名前を呼ばれたことに驚き反射的に顔を上げると、見るからにガラの悪そうな男性が三人ぐらい私の前にいた。
「ふぅん、これで五万なら安いもんじゃない?」
五万? どういうこと? 何の話? 私が五万ってことなら――――もしかして、名和さんに売られた……!? め、迷羽さんに連絡しなきゃ、携帯電話をポケットから出して電話をかける。が、腕をつかまれ電話をかけただけになってしまう。これじゃ話せない! 幸い携帯はまだ後ろ手にあるままだけど気づかれたらどうなるか……!
「なにぐずぐずしてるのかな、俺がいいキモチにさせてあげるから」
耳元でねっとりとした熱い息とともに囁かれる。二人に羽交い締めにされ私は路地へと連れてこられた。暴れても無駄。私を掴む力は少しも緩まない。駅前の小さい方の本屋を選んだのはこういうことだったのかと思った。こっちの方が人通りが少なくて、夕方でもあまり人を見かけない。だから、私がどんな目にあっても助けてもらえないかもしれない。
お願い、助けて! 迷羽さん!!