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獣は己を知り、己に成る  作者: 大饗ぬる
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chapter 3 獣の餌食になった末路②

 今日は迷羽さんは来られなくなった。迷羽さんのことだからあとから来るのかもしれないですけど。

 本当は一人で行くのは心細かった。けど、ずっと迷羽さんに頼りっぱなしだと今までの私と何も変わらない。一歩を踏み出さなきゃって思ったんです。

 敬語も迷羽さんにはやめろと言われていたんですが、中々出来なくて。いや、言い訳ばかりじゃだめですよね。せめて心の中だけでも敬語をやめます! じゃなくて、や、やめるね?


「おい、あれ見ろよ」


 学校に着いたそうそう、男子に見つかりまし、見つかった。何か言われるのかな。嫌だな。二人でこそこそ喋ってるのわかるし、何も聞きたくない。いじめられるのはいやだ。


「すっげー美人だな!」

「無理無理。オレらには高嶺の花ってやつだって」


 え? 私以外に女子はいないけど? まさか、そこまで変わってないし。前とは違って少しはスリムになったとは思うし、前はしなかったお化粧もしてるけど……。きっと私以外の人に対して言ってたことを私が勘違いしたんですね。それをいじめられる! とか思って。こんなんじゃまだまだ迷羽さんに怒られちゃいますね。

 はぁ……。さっきのことがあってから神経が過敏になってる気がします。みんなにじろじろ見られている感じがするけど、別に私を見てるわけじゃないとも思うのに。教室に入るのやだなぁ。教室の扉の前でうろうろしていたら向こうの方からしぐれさんが友達と来ているのが見えた。


「しぐれさん」

 しぐれさんはきょとんとしてなんで呼ばれたのかわからないみたいです。私のこと忘れちゃったのかな。

「え、あんたもしかして、京姫ちゃん?」

「うっそー! あのブス? ちがうよね、しぐれ」


 しぐれさんの隣にいた友達らしき人の言葉が刺さる。でも、そこで落ち込んだりしないように、顔は上げたまま。迷羽さんのいうことを信じると、人は落ち込んだから下を向くんじゃなくて、下を向くから落ち込むんだそうです。心といってもそれは頭の中にあるもの。その頭をちゃんと支えられなかったら精神バランスが狂うのも当たり前だって。


「あんた失礼ね。ごめんね、京姫ちゃん。美人になって戻ってきたわね。おかえり」


 そういって頭をぎゅっと抱えてくれた。しぐれさんの胸に顔を埋めることになりながら嬉しさを噛み締めた。

 思い切って教室に入ると一瞬クラスメイトは「こんな人いたっけ?」といった感じだったけど、それが私だとわかるとみんな一斉に寄ってきた。


「櫻宮すげー! 休んでたと思ったらこんな綺麗になったりして。一体なにしてたわけ?」

「ちょっと男子はあっち行って! 櫻宮さんどうやったの? そのメイク超可愛いし。私にも教えて」

「ダイエットもしたの? 一週間で痩せれる方法があるなら教えて!」

「ねぇねぇ、今度一緒にカラオケ行かない?」

「清美、ずるい! 櫻宮さんは私達とマスドいってダベるんだもんね~」


 本当だ、迷羽さんの言ったとおりだ。

 しぐれさん以外の人は私が前よりキレイになったら態度が変わった。ヒーローみたいに思ってるのかな? 公衆電話から出てくるとダメ男がイケメンヒーローに! みたいにね。それともグリムのお姫様? 魔女に素敵な洋服と豪奢な馬車とガラスの靴を出してもらった? 自分で言っててこの例えはあってるなと思った。魔女は迷羽さん。私を灰の中から出してくれた。そして、ガラスの靴。きっと一週間も経てば元に戻るんだろうなって思う。それでも今の私なら頑張ってみせる。

 昼休み、クラスメイトの質問責めにあうのが嫌でしぐれさんを誘って中庭に来た。


「京姫ちゃん、そういえば迷羽は?」

「今日なんか用事があるから来れないっていってました」

「ふーん」


 なんだかんだで迷羽さんとしぐれさんって本当に仲が良いんだなって思ってしまう。しぐれさんは迷羽さんに冷たいように見えていつも気にしているのが私にはわかるから。


「あ、そうだ! しぐれさんって今回の学年単位の数学課題ってもうやりました?」

「やってるわよ」

「見せてください」

「だめ。自分の力でやりなさい」

「はーい」


 一週間前の自分ならこんなやり取りは絶対出来なかった。意識してするようにしてる部分はあるけど、言葉に詰まることも減った感じがする。多分、毎日迷羽さんとバカな会話をしていたからだと思う。でも、しぐれさんにはどうしても敬語になっちゃうなぁ。昼食を食べてしばらく話した後、そこでしぐれさんは次の授業が教室移動らしくて別れた。

 それにしても、今朝の迷羽さんは何かを隠している感じがした。いつもそうだといえばそうなんだけど、質が違う気がしたから、心配。それにどうして私をキレイにしようとしたのかも知りたい。聞いてもいいのかな?


「京姫、キレイになったわねぇ」

 後ろから声をかけられて振り向くとそこには

「名和さん」

 名和(なわ)叶里奈(かりな)さんがいた。迷羽さんにちょっかいばかりだす、あまり好きじゃない人だ。

「今日、おヒマ?」

「特に予定はないですけど、何かありますか?」

「キレイになったらそんな冷たい態度までとれるようになったのね~。ただ京姫と遊びたいだけよ。それに、あなたの知りたいことを私は教えてあげるわよ? あなたが知りたいのはあの迷羽のことでしょう?」

 どきっとした。心の中を読まれたんじゃないかと思って。違う。私の心臓が高鳴ったのは迷羽さんのことが知れるチャンスだと思ったからだ。

「放課後に駅前の小さな方の本屋の前で待っているから」

 それだけいうと名和さんはいなくなった。どうしよう。どうしたらいいですか、迷羽さん。


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