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空の色をいつから思い出せなくなったのだろうか。
冷たい鉄格子から入る僅かな隙間に向かって、吠える吠える吠える。
咆哮は誰にも届かず、闇の空間へと吸い込まれていく。だが、それでいいのだ。
あの優しく、純粋な少女に聞こえたなら、きっと心を痛ませてしまうだろう。
何の為に鳴いたのかわからないまま、重い首輪に繋がる悲痛な鎖をじゃらっと言わせながら、床に置かれた容器に口を付けた。
犬用の首輪に、犬用の食事皿。
俺は多分、獣なのだろう。そう誰もが信じて疑わない、少女以外は。いつか、遠い日に知った赤ずきんの物語のように、あの少女を腹に収めてしまうだろうから、俺はここで隔離されるのが一番なのだ。
運良く猟師が通りかかるとも、形を残したまま丸呑み出来るとも限らない。
お伽噺は現実には有り得ない。
吠え続けて枯れた喉を潤す水は、カビ臭い味がした。