第3話 終焉ヲ拒ム者
「…………ッ」
目が覚めた。どうやら、頭を抱えていたらそのまま寝てしまったようだ。
振り返ると、ベッドの上にスマホが置いてあった。それを見て、あの事を思い出してしまった。
「今日…渋谷に行かないといけないのか…?」
ボソッと呟いた。
僕が行くことで世界は救われる…。って、そんなアニメの主人公みたいな事、あるわけないよね。僕は主人公でもなんでもない。三次元という世界に住んでいるただのモブキャラだ。だって、僕は至って普通の高校2年生なのだから。
すると、ベッドの上にあるスマホがにわかに振動しだした。
椅子から立ち上がり、ゆっくりとベッドの上にあるスマホを手に取ってみる。
「………!!」
亜李架からメッセージが届いていた。しかもその内容は、今思った事が見透かされていたような文章だった。
『今日、来てくれるよね』
『あなたはこの世界の主人公、この世界のすべてを救うために立ち上がった主人公なんだよ。卓郎にしかできないこと』
『お願い、世界を救って。そして、もう繰り返させないで』
僕が、主人公?
「…はじめてだ」
こんなに人に頼られたのは。
僕にしかできないと言ってくれたのは。
「頼ってもらえるのって、こんなに嬉しいんだ…」
たとえ頼ってきた相手が悪魔であろうがなんだろうが。
頼ってくれたのは、すごく嬉しい。
湧き上がるこの感情を、ずっと大事にしていきたい。
「こんなに頼られたら、行くしかないじゃないか…」
涙を浮かべながら、卓郎はポツリと言った。
「…………」
ビルの屋上から、渋谷の街を眺める一人の少女がいた。
「今回は成功するはず、きっと────」
金色の髪を靡かせながら、少女は呟いた。
今から始まるのは、世界の存亡をかけた戦い。
負けて終焉を迎えるのか、それとも、勝って新しい起点を創るのか。
この戦いを、私は幾度も見てきた。
そして、何度も卓郎は負けていた。
でも中には、卓郎は≪理想を現実にする者≫にならないことだってあった。
卓郎が負ける度、もしくはハズレに当たるたび、私は世界線を移動して次の卓郎にかけた。
何度も、何度も何度も。
もうダメだとも思った。
でも、今回はいつもと少し違った。
今回は、きっと他の世界線とは違うはず。
今回の卓郎ならきっと、やってくれるはず───
107高層ビルの前で、卓郎は足を止めた。
妙だ。
ここは渋谷のはずなのに、ここらを歩いていた人が人っ子一人いない。
「なんなんだ…これ」
信号も機能しておらず、スクランブル交差点にも人はいない。
あるのは静寂だけ。
妙な静けさの中、突然どこかから声が響いてきた。
『ほう、あなたが≪理想を現実にする者≫ですね?私はエルメス、エルメス=フォン=レッゲンドルフ。今日はこの地球という惑星の活動に終止符を打とうと、私はここに来ました』
この声の主は、いつの間にか目の前に立っていた、全身スーツに身を纏った男だった。
「な…な、な…なんで…なんでそんな…」
なんでここでコミュ障が発動するんだよ!!
『なんでこんなことをするのか、ですよね?それはもう、"この世界が必要じゃなくなったから"ですよ。この"宇宙"という存在を安定、確立させる為にこの世界この惑星が創られたのですが、もうここは必要じゃなくなったんですよ』
必要じゃないから消すって…必要じゃなくなったこの地球という惑星が存在しても、その宇宙自体に影響はないんじゃないのか?
『そうですね…確かにそのままにしておいても、宇宙に何の影響もありません』
「なら───」
『ですが、人工的に宇宙に害を齎す確率が高いのは、この地球という惑星の人類なのです』
『人間は愚かです。自分達の為に自然を破壊したりと、随分とまぁ自己中な事をするモノですね』
確かにそうかもしれない。
…が、このままはいそうですかと認めるわけにはいかない。
だって、僕はまだ消えたくないんだ。
まだ三次元で恋愛なんてしてないし、気になるアニメもあるし、そして一番嫌なのは───
────"亜李架"という存在の消滅なんだ。
三次元の女なんかに恋はしないと思っていたけど、やっぱり心の何処かでは、三次元の女、つまり亜李架の事が好きだったみたいだ。
「それでも─────」
右手を空に仰がせ、ディトランスを生成し───
「この世界は、消させない」
その言葉を言い放った瞬間、卓郎の心臓の鼓動は今までにないほど高まりはじめた。
それは、恐怖や不安というよりも、自信や希望による鼓動だった。
今、かつてないほどに希望を持てている。
『やはり止めようとしますか。ですが、あなたに私は殺せません』
エルメスは虚空から紫色の禍々しい剣を取り出した。
その剣は、ディトランスと同じように、歪な形をしていた。
『私が持っているこれは"カーディナル・ディトランス"あなた達が持っている物とは格が違いますよ』
敵の言葉を聞き入れずに、卓郎はエルメスに向かって走り出した。
『無謀ですね』
エルメスは剣を回し地面に突き刺すと、こう言った。
『√-153 EとNの境目 魔術名"エクスプロージョン"』
そう唱えた途端、空気がピリピリと弾ける音と共に、エルメスを中心に爆発が起こった。
渋谷中の空気を震えさせ、大地を揺るがす程の轟音が鳴った。
「はぁ…はぁ…な…何が」
爆発に巻き込まれたと思われる卓郎は、何故か無傷だった。
『なぜ無傷なのです?魔術を使ったのですか?…あなたはまだ魔術名を知らないはずなのですがね』
(そうだ…爆発が起きる瞬間…)
(√-300 TとNの境目 魔術名"トリスタン")
…と、爆発が起きる直前に頭の中で聞き覚えのある声が響いた。
そして、僕は反射的にその言葉を口にしてしまったみたいだ。
その魔術が、僕を守ってくれたのかもしれない。いや、きっとそうだ。
…でも、周りの建物は守ってくれないみたいだ。
107という数字は、さっきの爆発で破壊され、周りにある高層ビルも、信号も、なにもかもが残骸と化していた。
『まぁいいでしょう、魔術が効かないなら剣で勝負ですよ』
卓郎はゆっくりと身構えた。
『私、本気でやったことないんですよね』
『Japanese"チャンバラ"』
エルメスの剣が軌道を描きながら、卓郎へと攻撃する。
全て防ぐか避けるかしているのだが、これでは防戦一方だ。
上品な剣術で卓郎を圧倒しているエルメスは、剣だけではなく、蹴りや殴打もいれてきた。
「あぐっ…がゔっ…!」
容赦なく叩き込まれる殴りに、卓郎は何もできなかった。
『もう終わりですかね』
そう言ってエルメスは、剣を卓郎に向かって振り下ろした。
『…………!!』
間一髪で卓郎は剣を避けることができた。
『あなた、なかなか手強いですね。硬直しているのにも関わらず、無理矢理体を動かして剣を避けるとは』
「だって…これに負けたら全部終わっちゃうんだ…全て僕にかかってる。なら、もう頑張るしかないんだ!!」
ディトランスを握り直し、エルメスに向かって剣を振りかぶる。
攻撃は弾かれ、避けられ、いつまでも決着はつかないのではないかと思うほどだった。
鍔迫り合いが数秒続き、卓郎はエルメスの力に負け、後ろへ飛ばされた。
地面を強く踏み込んで、そこで止まった。
そして、休む隙も与えないように駆け出し、エルメスに向かって剣を振った。
相手の攻撃に合わせて剣を振って防いだり、そして剣の軌道をずらした。
そして、全力で剣を振った瞬間───。
ガキンッ!!と、パリィの音が響いた。
『ふん、剣を振るだけが戦いじゃないんですよ』
「……!!!!」
反動で上に上がったディトランスを勢いよく振り下ろす。
エルメスはそれを避けるが、卓郎の狙いは別だった。
振り下げ、地面にディトランスが突き刺さる。
『まさかっ…!!』
そして、卓郎はこう言い放った。
「√-003 FとNの境目 魔術名"フリューゲル"!!!!」
そう言った途端、強い風がエルメスに向かって吹き出した。
エルメスは暫く飛ばされないよう粘っていたが、それも束の間。
風の力に負け、少し離れた定周期式の信号へとぶつかった。
『が…ぎ…』
激痛で声が出ないみたいだ。
所詮コイツも人間。痛みには勝てないんだ。
『や…ってくれましたね…!』
(亜李架が使ってた魔術の名前、覚えてて良かった…)
腰から何かを取り出したかと思うと、それを卓郎に向かって投げた。
「………!」
卓郎がそれを避けると同時に、それの正体を知ることができた。
「トランプのカード…!?」
そしてそのカードから火が発生し、数秒でカード全体を呑み込んだ。
『≪火を司る神≫…!!』
《ギガアァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!》
卓郎の背後で、火の化物が創り出された。
「な…なんだよこいつ」
驚きで素っ頓狂な声をだす。
化物は燃え盛る右手で、こちらへ殴りかかってきた。
それを卓郎は間一髪で避ける。
化物の右手拳が着地した場所は、そこそこの大きさのクレーターができていた。
走って距離をとろうとするが、化物は炎の触手で卓郎を追いかける。
(まずい…!!)
ディトランスの刃で炎の触手をかき消した。
(これ…勝てるのか…!?)
そう思った瞬間────
ブワァァと、炎が消え去る音がした。
「な…」
化物ではなく、見覚えのない少女が、化物のいた所に立っていた。
定周期式の信号→赤黄青のあれ
はい、自分で言うのもなんですが、今回の話が一番面白かったんじゃないかな?
…いや、やっぱりそうでもないですね
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