第2話 亜李架
「私は私のしたことに後悔はしてないよ」
確かにこう言った。
「え…?な、なに…何を言ってるの?」
どういうことかまったくわからない。そして、その疑問はすぐに解決させられた。
「卓郎のディトランスを解放させたのは私、そして卓郎の妹を殺すように命令したのも私。こうするしかなかったの、卓郎のためだから」
ということは、奈々を殺すようにあの男に命令して、僕にディトランスを無理矢理解放させたってこと?
「ふざけるなよ」
低い声で卓郎が唸った。
「なにが僕の為だ!!なにが…なにがなにがなにがあぁぁ!!」
頭を抱えて怒りに満ち溢れた声をあげた。
そして見様見真似で右手を空に仰がせ、ディトランスを生成させる。
亜李架は、何故かこの光景を何回も見たことあるかのような顔でディトランスを握り直した。
「もうこれ以上、繰り返さないで」
その言葉を聞いた瞬間、卓郎は勢いよく地面を蹴り、亜李架に向かって走り出した。
両手で柄の部分を握り、思いっきり横に振った。
「がゔっ…!」
亜李架は慣れた手付きでパリィし、下からディトランスを振り上げた。それを止めるべく、卓郎はディトランスを振り下げる。ガキィ!という高い金属音がしたあと、両者の腕に反動が返ってきた。
「亜李架ッ…!!」
「…………」
もう一度振り下げる。
そしてその度パリィされ、威力はそこで殺されてしまう。
後ろへ一歩後退りし、また前進する。なんとまぁ単調な動きかと自分ではわかっているのだが、考えたことに体がついてこない。
今度は剣先で突くようにして、亜李架のディトランスの側面に打ち込んだ。
「変わってる…」
亜李架が何か呟いたが、そんな事はどうでもよかった。
今は目の前にいる"元"幼馴染を倒すだけだ。
すると、亜李架は突然地にディトランスを突き刺し、こう唱えた。
「√-003、FとRの境目、魔術名"フリューゲル"」
そう唱えた途端、ディトランスが眩い燐光を纏った。
ゴオオオオと、何かが響く音が聞こえたかと思うと、急に強い風が吹き出した。
「ぎゃ…うっ!」
あまりにも強すぎる風のせいで、後ろの壁へ飛ばされた。
激痛が走り、息ができない。
「はぅっ…ひっ…亜…李……架ッ…」
亜李架が歩みを進めてくる。
それも、死んでしまいそうな暗い顔で。
目の焦点を虚空にあわせながら呟いた。
「もう、この世界で終わらせて」
そして、卓郎の意識は途切れた。
「………」
目を開けると、見覚えのある天井があった。
いつもここで起きて、いつもヲタク生活を満喫している場所。
「ここは…」
ここは、僕の家。
「夢…だったの…?」
夢オチってサイテー!と思っていたところで、隣の小机から突然スマホが通知音をだした。
スマホを手に取り、電源をつけると、RAINというチャットアプリに、亜李架からメッセージが来ていた。
「……………!!」
そのメッセージを見た瞬間、夢ではないことが確定した。
『さっきはごめんね』
『でも、こうするしかなかったの。全部卓郎のためだから』
その言葉を見た瞬間、怒りが湧き出てきた。
「また…また"こうするしかなかった"なのかよ…!!また"僕のため"なのかよ…!」
『明日、渋谷へ来て。そうしたら、世界は救われる』
スマホを勢いよくベッドの上に投げ捨て、パソコンと向かいあった。
「ん…」
ネッ友からメッセージが届いていた。
毎日のように話しているこの"クリオネ"という人物からだった。
『生きてるか〜い!』
キーボードを急いで叩き、返信をする。
「生きてる生きてる ごめんにょ!」
『おおおお!!生きてた!や っ た ぜ 。』
「おうおう、すまぬん」
『そういえばさぁ最近話題になってる"予知スレ"ってあるじゃん?』
予知スレ…?もしかして、昨日見たあれの事か。
思い出すと、罪悪感が込み上げてきた。
「おんおん」
と、キーボードを叩き返信する。
『俺気づいちゃったのよ!』
すると、クリオネから一つの画像リンクが送られてきた。
『見てみ』
ゆっくりとリンクにカーソルを合わせ、クリックした。
「……………ッ!!」
そこに表示されたのは、下顎から上がない男の死体だった。
急いで表示を消し、クリオネに返信を送る。
「んで、何に気づいたのん?」
『画像の右下、壁に5センチぐらいのシールが貼ってあるんだけど、わかる?』
もう一度画像を開いた。
「…………」
そして、言われた通りその画像の右下を見てみると、そこには、5センチ程のシールが貼ってあった。
そのシールは、力士の顔をシンメトリーにしたようなデザインで、どこか不気味な雰囲気を醸し出していた。
「なに?このシール?」
『知らないの?2009年から東京中に貼られまくってる"力士シール"ってやつだよ』
力士シール。
でその力士シールとやらと、この事件について、何か関係はあるのだろうか
『実はね…これ、今日出された殺人予知の画像にもあったんだお!』
「偶然じゃね?」
『偶然かどうかは、また起きる殺人事件の画像を見てから判断するとしようではないか! それでは!落ちるでやんすー』
「おつかれー」
- クリオネ がログアウトしました-
どうなってるんだ。この東京という街は。
≪理想を現実にする者≫だったり、妙な未来予知人間に、ディトランス…もうなんなんだよ…。
頭を抱えて机に額を置いた。
(逃げたい…逃げたいよ…助けてよ…なんで僕はこんな街に住んでるんだ…ねぇ…)
そして、そのまま眠りについた。
ここまで見てくれてありがとうございます!
よかったら感想などお願いします!