第1話トラウマティック・ディトランス
下校のチャイムが鳴り響く。やっとだ、この音を聞くために今日一日頑張ったのだ。
「はぁ…」
下校中に、周りから楽しそうに話すリア充どもの声が聞こえる。
三次元には興味がないはずなのだが、何故か悔しくなってしまう。
そしてふと思い出す。
「…殺人事件って、今日あるんだよな…」
先日書きこまれていた、殺人事件の事。その事を忘れようと思っても忘れる事ができなかったんだ。
すると、
「が…うっ…!」
頭痛がした。頭が割れそうなほど痛い。
急いで路地裏へと駆け込む。
壁にもたれて、頭痛が治まるのを待つ。
数秒で頭痛は消えたのだが、何故かこの路地裏をどこかで見たような気がした。
(ここに来るのははじめてのはず…どうして…)
そう思った途端、
『オイ、そこの兄ちゃんよ』
「………!!」
まずい。
とても、まずい。
『ここが俺のテリトリーだって事知らねぇのか?』
(そ…そんなの知らないよ…!!)
今思ったことを口に出したら確実に殺されてしまう。
大柄の男は、腰から何かを取り出した。
それの正体は、"手榴弾"
(こんな近距離でそれ使っちゃダメだろッ…!)
『こいつぁな、威力と音を最小限にしてるんだよ』
『でもな、確実に"頭"吹っ飛ばすぐらいの威力はあるんだぜ?』
逃げなきゃッ…!
そう思った頃には、音はもう手榴弾のピンを抜き、こっちに投げてきていた。
(どうする…どうするッ…!!!)
考える事よりも先に体が動いた。
右手に持っていた学生鞄で手榴弾を打ち返し、壁に当たって男の額に着地した。
ドンッ!!!!!!と爆発音が鳴った。
それと同時に、何かが飛び散る音が聞こえた。
「な…これ…」
男は下顎から上を失っていた。
そうだ。
これは、昨日の…。
「う…あ…」
人を殺してしまったという罪を背負ったまま、卓郎は自宅へと駆け出した。
いつも通りパソコンを立ち上げ、ゲームを始めた。
のに、何故か楽しいと感じない。
いや、もう理由は明白なんだ。
僕は人を"殺してしまった"のだから。
もう僕は人間じゃないと言っても過言ではない。
「もう…嫌だ…」
心が罪という化物に潰されてしまいそうだ。
こんな罪を背負いながら生きたくない…
罪悪感をいつまでも感じたくない…
「僕はッ…!」
すると───
ピーンポーンと、こちらの気持ちとは真逆の音でチャイムが鳴った。
『卓郎〜!生きてる〜?』
この声は…
「亜李架…?」
ゆっくりと玄関の方へと歩み寄る。
『お〜い!あれ…これ真面目に死んでるんじゃ
「生きてるよ」
「ややっ!生きておられたか卓郎殿っ!」
扉を開けると、金髪碧眼の(喋らなきゃ美)少女が立っていた。
この変なのの名前は鈴科亜李架。幼馴染だ、天音では別のクラスになっている。
正直、うざいとまでは思っていないが、良い意味でも悪い意味でも他人の気持ちを理解できないやつだ。
…それなら、コイツに僕を殺してもらうってのは。
(ダメだよ)
自分自身が自分の考えたことに対して反対していた。
「なぁ…これから生きていくために必要なヒント…教えてくれないか…?」
「抑止力」
え?と、卓郎は返す。
「だーかーらー、ディトランスだって」
「な、なんだよ…それ…」
「漆黒の剣『ディトランス』それを持てばあなたは救われる────はず…」
最後に小さく何かが聞こえたような気がしたが、それにしても何言ってるか分からない。
「は…はぁ?お前、そんな感じのアニメ好きだもんn
「違うって、ディトランスは本当に存在する。信じられないなら見せてあげよう…っと思ったけど、ここじゃばっちりひと目につくね。場所変えよっ!」
卓郎の返答も待たずに手を引いて走り出した。
「ここなら誰にも気づかれないよね!」
2〜3分走った所で、にわかに亜李架が口を開けた。
ここは廃病院の後ろ側。こんな所には誰も来ないはず。
「はぁ…はぁ…じゃ…じゃあ見せてよ、そのディトランスとやらを」
亜李架はコクンと頷き、焼ける空に手を仰がせた。
ピカッ!!と紫色の光があたりを包んだ。
そして亜李架の右手に現れたのは、歪な形をした黒い剣だった。
「これがディトランス、そしてこれを持つことができる人達の事を≪理想を現実にする者≫って言うんだよ。卓郎にも、この剣を持つ資格はあるはず」
「どうして…」
「この資格を取るのに必要なのは過去、もしくは今感じたストレス、そしてトラウマ。この2つがあれば剣を生成する事ができるの」
卓郎は一歩後退る。そしてあの出来事を、今起こったように鮮明な映像で思い出してしまった。そう、あれは中学2年生の頃───
「嫌ああああああああ!!!!」
悲鳴が聞こえた。この声の主は、
「奈々!!!」
妹だった。暗い高層ビルの中で、十字架に貼り付けられていた。
「やめろ…」
ヤツが妹を黒い剣で刺そうとしている。
「やめろ…!!」
なぜだ。
「やめろ!!!!!」
動けない。
「やめ
グチャァと肉が刳り裂かれる音がした。
次第に妹の悲鳴も小さくなり、そして事切れた。
「あ…な…な…」
ヤツが歩み寄ってくる。
そして黒い剣をこちらに向け、呟いた。
『君の為だ』
「………ッ!!」
目を開いた途端、視覚かこちらへ伝えてきた物は、2つの死体。
男の死体は、上半身と下半身が切断されていて、そして────
奈々の死体は、左胸から腰にかけて切り裂かれていた。
「僕は…」
現実を歪ませ、理想を現実にする力が欲しい。
「僕はッ…!!!」
そしたらこんな出来事も、過去の黒歴史も、全て無かったことになる。
「許してくれ…奈々…」
でも、そんな力はどこにも存在しない。あるとしたら、それは二次元だけ。
「奈々を助けれなかった…僕を…」
…これらを忘れるために、楽しい事をして、頭の中にあるこの出来事を上書きしてしまおうと思ったのだ。
いつの間にか涙が流れていた。
その涙を、亜李架は目で追う。
そして、笑みを浮かべこう言った。
「私は私のしたことに後悔はしてないよ」
こっからが本番です!他の作品よりも面白い展開にしていきたいと思っておりますので、これからも見ていただけると幸いです!
人生初の感想を貰いました!本当にありがとうございます!