みゅーの最大魔法
『アシャト、アシャト、竜王様が……みゅーは、ぢょうしちゃりゃいいの』
ドドォーーン。
大きな衝撃と音をさせて、竜王が岩の上に落下した。
「嘘だろう……」
キュー。
誰一人動けずにいる中、ネズのステッキを握りしめたみゅー。
『みゅーも、みゅーぢゃっちぇ……何か出来りゅ筈なの!』
みゅーに出来る魔法は二つ。
竜王様でも敵わない『フーリ』を眠らせる事なんて絶対出来ないだろう。
では、もう一つはどうだ?
早くしないと、また、元の『フーリ』に戻ってしまう。
『ふみゅみゅっ、さっき、あの傷ちゅいちゃ司祭しゃんは何と言っちゃかな?』
『七色の卵』と言っていた。
それを信じて決めたみゅーは、ネズのステッキを構えて唱えた。
「アシャトの作っちゃ杖しゃん。ぢょうか、ぢょうか、みゅーに力を貸しちぇ」
「集めちゃ、刻を巻き戻せ。グルルルルル」
これは、みゅーが眠らせた者達から少しづつ集めた刻を使う、みゅー最大の魔法だ。
『これじぇ、卵しゃんに戻っちぇ。お願いなの』
ステッキの先の丸い部分を、明滅する七色の光りが激しく巡り、そして虹のような橋を『フーリ』の欠片に渡したのだ。
白く細い手のひらが空中に現れて、『フーリ』の欠片を掬うと、優しく包み込んだ後に、吐息をかけて消えた。
みゅーも、全ての魔力を使いきりその場で昏倒。
残ったノーサスが、恐る恐る『フーリ』に近づくと、その姿は何処にもなく、盛り上がった砂の上には、七色に輝く卵がただ座っていただけだった。
■
一方、ルビ達竜は、竜王の力の解放を察知して、すでに飛び出していた。
フィンディアルもルビの叫びを心で受け止めた後、風魔法でカーリング皇国に飛んで行った。
いかに鈍いアサトでも、ただならぬ揺れを感じて、風神と外に出てみれば、フィンディアルが落とした雷程の轟音と光りが、カーリング皇国の方角から起こっているのを確認した。
「何、何が起こっているの、みゅーちゃん、ネズちゃん……」
茫然自失のアサトに風神は言った。
「ミテクル」
「待って! 俺も行く」
アサトは、ローちゃんの事をすっかり忘れて風神に乗ってランダルの山を越えた。
二人共が、違反をして越境してしまっているのだが、後で怒られるのはいつもの事だ。
サンドベルの海岸には、翔竜や竜が集まり上空を埋めていた。
ルビはすぐに竜王を見つけて、何故かマフィンを口に突っ込んだのだ。
ゆっくりと咀嚼してから飲み込んだ竜王。
「ママのぉ、手作りマフィンだよぉ。美味しいでしょうぉ?」
竜王は、何とも気が抜けてしまった。
フィンディアルは、海岸の真ん中で立ち尽くす『小さき者』を発見してそこに降りた。
「何があった? 説明できるか?」
と聞いた。
「竜騎士様! 急いで、この卵が孵らないようにして下さい」
「理由は?」
「説明は後でしますから、早く!」
壊したらいいのか、隔絶すればいいのか腕を組んで悩むフィンディアル。
そこに、「フィーン!」と、アサトがやって来た。
「アサト様早く! この卵が孵らないようにして下さい」
同じ事を頼んだノーサスに、アサトは、得意の結界を幾重にも施した。
「これでいいかな?」
安心してノーサスも力を抜いた。
「ところで、みゅーちゃんとネズちゃんは無事なの?」
ノーサスが指をさした方に走るアサト。
倒れているみゅーちゃんを見つけて絶叫した。
「ギャー、みゅーちゃんしっかりじてぇー!」
あまりの騒がしさで、みゅーも少し離れた先のネズも気がついた。
みゅーとネズを大切に手のひらに載せたアサト。
『みゅみゅっ! さっきの手のひりゃは、アシャトぢゃっちゃんじゃ』
みゅーは、ピョイーンと顔に跳びつき、大好きなアサトに頬擦りをした。
「良かったよぉ、無事で。本当に心配したんだからね」
アサトがポタポタ落とす涙で、砂まみれだったみゅーはキレイになっていった。
それからは、『デューク』の名の元にフィンディアルが指示をして、テキパキと事後処理が行われた。
アサトは、その隙にとノーサス、それにみゅーとネズをこっそり連れて帰ったのだった。




