ネズのステッキ
真っ黒飛び虫の数と、白目を剥いた教会職員の数が一致した事から、宮殿内には恐らくもういないのではないかと判断された。
目覚めてからの教会職員は、廃人のようになってしまって、真っ黒飛び虫の恐怖と共に、退治したみゅー達の噂が広がり、『名もなき勇者』として大人気となったのだ。
ノーサスは、これを聴いた権威に弱いノームの長の父親から、「帰ってこぬか?」と執着されてうんざりさせられるのだが、それはもっと後のことになる。
一方、アサトは、偵察させていたルビからこの話しを聴いて、家のちっちゃい子達はお転婆で困ると頭を抱えていたのだった。
しかも、自分が作った、恐ろしく物騒な魔道具の事を棚に上げてだ。
元々、このサーディナルの世界では、全員が魔力を持っているのだ。
だから、白ネズミ用に、ちょっとの魔力で相手の魔力を吸わせようと作ったのだが、『真っ黒飛び虫』の魔力は強大で、それを吸ったステッキは、独自の進化を遂げたのだ。
アサトが作る魔道具は、魔法の道理がわからない異世界人が作った物なので、どちらかと言うと魔道具に命が宿ると言うか、九十九神のような物が出来上がってしまう。
使い魔の風神もそう言える。
あの時、キャパを越える黒い魔力を吸ったことで、『吸い取り杖』が『暴虐のステッキ』に変貌してしまったのである。
それを作った本人が知らないのだから、この先いったい何が起こるのか、確かに頭の痛いことだった。
■
『真っ黒飛び虫』改め『フーリ』の存在を危惧した皇国は、サンドベルの教会に竜王様と『名もなき勇者』達にも向かってもらったのだ。
「風の強いカーリング皇国に、飛び虫が生息する事なんてあるでしょうか?」
ノーサスのもっともな質問だ。
「『フーリ』は、誰かが生み出した魔法と考えるのが妥当であろう」
「ふみゅみゅ、竜王様は何でも知っちぇりゅね」
「まあ、小さき者よりは永く生きておるからな、ワハハハッ」
何をやらかすかわからない小さき者達を気に入った竜王はご機嫌だ。
竜騎士達がワイバーンに乗って、先に向かったサンドベルの教会に向かう。
到着すると、団長のサマヴィルがすでに捜索を終えて待っていた。
「お待ちしておりました。竜王様」
「もう、調べは終わったのか?」
「はい。中には、白目を剥いた教会職員や信者が多数倒れておりました」
「遅かったか」
「教会の司祭の姿が見えないので、恐らく逃げたかと……」
「では、そちらを頼む」
「竜王様はどちらへ」
「決まっておる。海だ」
「救出が済み次第、我々もすぐに向かいます」
「バルトを寄越せ。浄化の魔法が必要になるやもしれんからな」
「承りました」
こうして、再度海に向かった竜王とみゅー達。




