真っ黒飛び虫
「みゅみゅっ、ネジュちゃん!」
みゅーは、急いでアサトがくれた鞄から薬草エキスを取り出した。
初めて会った時のように、倒れている口の中に一滴ずつ慎重に垂らして含ませた。
すると、ひっくり返ったネズの鼻と口がヒクヒク動いて、前歯をペロッと舐めたのだ。
パッと開けた紅くてまあるい目が、みゅーを見上げて「チュー」と言った。
「みゅー、ネジュちゃん格好良かっちゃよ」
「みゅー……さん」
勇気を出せば、ただのネズミの自分も役に立てるのだと、少し自信を持てたネズなのだ。
「みゅーさんと出会えて、本当に良かったでちゅー」
「うふふ、みゅーも~」
「これですね、アイツ等を倒したのは」
ネズが気づいたので、さっきから気になっていたステッキを拾ったノーサス。
「あっ!」
手にした瞬間に、先の丸いところに光りが回り、発射された光りは、ネズの頭を越えた先の水晶の壁をどかんと盛り上げた。
驚いて、カランとステッキを放したノーサス。
「今、魔力を吸われた」
「ふみゅっ?」
今度はみゅーがそれを拾うと、またステッキの丸い先に光りがクルクル集まって発射。
当たった先の壊れた鉢が、元に巻き戻されたように戻っていく。
「ふみゃー!」
みゅーもすぐに放した。
「どうやら、持った者の魔力と魔法を勝手に引き出す道具みたいだ」
「飴ではないんでちゅか?」
残念そうな顔をしたネズだった。
団長は、竜王様が連れて来た『小さき者達』の実力、特にただのネズミだと思っていた白ネズミの活躍に心から驚いた。
それから、弱っていた妖精やノーミードを助けて回るみゅー達を待っている間に、真っ黒飛び虫を調べていた。
全員の治療をしたみゅー達が戻って来たところで、竜王の元に連れ戻ったのだ。
団長が感心したようにみゅー達の活躍、特にネズの事を語って聞かせると、皇王夫妻と司教は、やはり驚きを隠せないようだ。
唯一、楽しげに笑った竜王。
「土もない場所で、ノームも良く頑張ったな。して、活躍した『小さき者』の杖は何処に?」
「みゅっ、しょりぇが、持ちゅちょ勝手に魔法が出りゅかりゃ危ないみょ」
「ネズの袋に入れてあります」
みゅーとノーサスが竜王に説明をする。
「アレはまた、随分危険な代物を作って持たせたのだな。ワハッハッハ」
「チュー」
皆に褒められ注目されたネズは、またもカチンと固まっていた。
「それで、その黒い虫とやらは、何処からこの宮殿に侵入したと言うのだ?」
ラングドゥル王は、まだ他に潜んでいるのではないかと、憂慮している。
「申し訳ございません。直ちに隈無く調べて参ります」
そう言って団長は退出した。
「みゅみゅっ、フーリフーリっちぇ言っちぇ、角かりゃネバネバを出しちぇ吹いちゃから、妖精しゃんが動けなくなっちぇ大変ぢゃっちゃの」
「フム、変わった虫ではあるな」
「竜王様も知らないのですか?」
「ウム、見たこともない。だが、この黒い粘液は、何とも気持ちが良いものではないな」
騎士達は、新人の失態をまだ報告していなかったので、この時点で関連を疑ってはいたものの、ハッキリさせるまでには至らなかったのだ。




