カーリング皇国の秘密 1
「デントラル! 我が宮殿にとうとう白銀王様が降臨あそばされたぞ」
「陛下、誠に夢のようでございます。心より、お喜び申し上げます」
遅れて来た司教は、滂沱の涙を流さんばかりに感激している。
『ちと大袈裟ではないか?』
白銀王は、いつまで続くのかと、少々ウンザリしていた。
皆が、落ち着いたところで、こう切り出す。
「司教よ。『海の神』の伝承は教会ではどのように伝わっておるのだ?」
「デントラルとお呼び下さい白銀王様」
「では、デントラル『海の神』の伝承を申せ」
「かしこまりました。遥か昔、創造主である女神セイナは、自らの形良い耳朶を切り落とし、この世に二種のドラゴンを造りたもうた。命の海には泳龍を、また、豊かな陸と澄んだ空には飛竜をと、それぞれが治めるよう堅く約束をさせたと伝えられております」
「ホゥ、それから?」
「ある時、創造主女神セイナの過ちにより、恩身の尊い血が一滴命の海に落ちてしまい、そこから邪悪な詠鯨が海に生まれ落ち、それがこの世界の最初の災いとなったと伝わっております」
「フム、その災いの先はどう伝わっておるのだ?」
「はい。妖精をたぶらかし集めた詠鯨の悪事を泳龍が怒り成敗するも、助け出した妖精は醜く変貌を遂げており、やむなく邪悪を抑える為に、己の『龍玉』を切り離して与えたと伝わっております」
「して、その『龍玉』はいずこにあるのだ?」
この質問を投げ掛けた白銀王は、今の今まで煩わしく感じていた崇拝が、一瞬で警戒に変わった事を悟ったのだ。
「どうした? 何処に奉納されておるのだ?」
「陸と空を預かる竜王様。この国では、『海の神』にまつわる伝承も『龍玉』の行方も秘匿とされております」
「言わずとも我にはわかる。『龍玉』は、ランダルの山の下に在るのであろう?」
「白銀王様! それを確かめて如何されるおつもりですか?」
ラングドゥル王は、震えながらもキッパリと尋ねた。
「そう、警戒する事はない」
白銀王には、大体の察しがついていた。
「『龍玉』を人に委ねるとは、泳龍も随分と無茶をしたものだ」
静かに語り出す白銀王の声は、緊張した場を瞬時に和ませた。
「アレを浄化する為に王家が多大な犠牲を払ったのだな? 随分辛かったであろう」
「白銀王様……」
ラングドゥル王は、憧れ夢見た創世の竜王に理解され労われた事で、初めて人前で涙を流した。
「カール(愛称)」
ミュルガン妃も、王と共に苦悩を分かち合ってきたのだ。
二人手をとり、喜びとも苦悩とも言えぬ涙を流し続けた。




