水晶宮殿
途中から、ネズちゃんの語りは終了します。
「それで、『海の儀式』とは何の為に行うのだ?」
「ちゃんと説明してくれた者がいないので、詳細はわかりません。ただ、聴いていた話しでは、『生け贄』『復活』『サーホエール様』の言葉が良く出ていました」
「『生け贄』とは、妖精だな」
「まず、間違いないですね」
「さっき助けた者達で全部であろうか?」
「妖精は気紛れですから、確認を取る事は不可能です」
「では仕方ない、確認は随時してもらうとするか。それから、『サーホエール』が『復活』してしまうと厄介な事態になるのでな。急いで、水晶宮殿に向かうとしよう」
「「「サーホエール?」」」
何だか、知らない事ばかりです。
みゅーさんとノーサスさんは、やる気満々ですが、私は……あの平和なお庭に帰りたいでちゅー。
向かう途中で竜王様は、崖の上での話しをしてくれました。
サンドベルの端にある林を抜けて、二つに割れた杖を持った数人が崖の上に現れたそうです。
そして、「スイムドラゴンの敵だ!」と叫んで竜王様に魔法攻撃をしてきたそうでちゅー。
それで、竜王様はカーリング皇国の番人でもあるワイバーンに急ぎ来るように命じて、だから、あんなに沢山集まっていたんですね。
■
【竜王様の来訪を知ったカーリング皇国の宮殿では、卒倒せんばかりに興奮し、下にも置かない出迎えをしたのだった】
「アサトの屋敷で、小さき者達の願いを聴いたのだ。アサトは、今、子育てをしている最中なのでな、代わりにと頼まれて我がこちらに出向くこととなった」
人語まで話す白銀王に、ラングドゥル・パル・カーリングⅢ世とその妃ミュルガンは、くぎ付けである。
「光り耀く竜王、白銀王様。こちらをお訪ね下さいましたこと、誠に恐悦至極にございます」
「みゅみゅっ、ふみゅみゅっ。みゅー達まぢぇこんなふわふわクッションに座りゃしゃりぇちぇりゅね」
「ハァー、挨拶は長いのか」
ノーサスは嫌そうにふてくされ、ネズはというと固まっていました。
「みゅみゅっ! ネジュちゃん大丈夫?」
「まるで、本物の置き物のようだな。息はしているのか?」
心配する優しいみゅーに、興味が湧いたノーサス。
ネズの尻尾を楽しそうに持ち上げようとしていた。
竜王がマッタリ座る豪華な玉座の横には、宝石で飾られた卓台があり、そこに、高級な金と銀の縁のあるふかふかクッションを載せていた。
そしてその上に、みゅーとノーサスとネズが載せられているのだ。
「みゅっ、ノーシャシュ! ネジュちゃんに意地悪しちゃりゃ駄目ぢゃよ」
「動くかどうか確かめているだけだ」
ピッキーーン。
「すまぬが、小さき者達を保護した妖精に会わせてはくれぬか?」
竜王は、退屈と緊張で騒がしいみゅー達を下がらせてやる事にした。
「はい、仰せのままに」
皇王に命じられた騎士が、クッションのままみゅー達を持ち上げて、賓客を迎え入れる部屋を後にした。
キラキラした杖を持った上品な男が、みゅー達と入れ代わるように入室して行く。
廊下の壁の窪みには、バルトレインが控えていて、みゅーは思わず手を振ってしまったのだ。
先日、シャダイン王国で開かれた武闘大会では、デルタと一緒にバルトレインを応援したものだから、すっかり知っているつもりでいたのだ。
しかし、大会に出場しただけのバルトレインからすると、「どなたでしょう?」と困惑するのは仕方のない事だった。




