ふわモコの正体
朝が来ました。
昨夜は、崖下にみゅーさんがドームを出してくれたので、安心して眠れたんです。
竜王様は、結界を張られて、みゅーさんのドームを抱えて守ってくれていました。
「おはようございます竜王様。一晩中守って下さりありがとうございました」
「フム、そのように畏まる事はない。特にいつもと変わらんのだからな」
竜王様は、朝日を浴びて輝きが増して一段と眩しいでちゅー。
「ふみゃ~、竜王様、ネジュちゃんおはようごじゃいましゅ」
「眠いのならば、ゆっくりするとよい」
「みゅっ?」
「暫くは、ここで見張る事になる」
そうでした。
昨夜、シーグレープさんと約束をしたから、人を追い払わなければならないんですね。
朝食を食べる時に、鞄の中身を確かめてみました。
「ふみゅふみゅ、ナブラ菜の種ちょ、お水。しょりぇかりゃ、みゅーちょお揃いのケープ」
「それは何でしょう?」
「みゅっ、こうやっちぇ身にちゅけりゅちょ、痛いのがちょっちょになりゅんぢゃよ」
「みゅーさん、すぐに着けて下さい」
何て事でしょう。早くみゅーさんみたいに身につけておけば、昨夜シーグレープさんにギュギュッとされた苦しみが、ちょっとになったのかもしれないのに。
私は、とっても後悔しました。
「ホゥ、中々良いではないか。また、小さき者の間で流行るかもしれんな」
竜王様が褒める優れ物のようです。
「ふみゅっ、あちょは、お薬ちょシュイーチュぢゃね」
「その袋に着いている飾りは何であろう?」
竜王様が言っているのは、これの事でしょうか?
「みゅみゅっ、モコモコしちぇりゅのみゅーも好き」
ふわふわモコモコした物が、袋に二つついて揺れています。
いったい何でしょう?
「静かに!」
竜王様の潜めた声に緊張しました。
「ここで、大人しく待っていなさい」
竜王様は、静かに舞い上がり崖の上目指して飛んで行ってしまいました。
「人が来たんでしょうか?」
「ふみゅ、竜王様はぢょうやっちぇ追い払うのかな?」
みゅーさんと静かに崖の上を見上げていました。
*
突然、竜王様が元の大きな体になって空中に飛び上がったので、私とみゅーさんにも良く見えました。
ところが、魔法が飛んできて近くの浜辺に落ちたんです。
爆発したそれは、みゅーさんと私を軽く吹き飛ばしてしまい、私達は、岩に激突しそうになったんでちゅー!
「みゅみゅー~っ」
「ヂュー~ウ」
ボワン。
みゅーさんが私を庇って抱きついたので、二人して柔らかい何かに包まれて落ちました。
「みゅっ? ふわモコ?」
「……」
「ふみゅみゅ、風神しゃん?」
「……」
私がやっと正気に戻り動き始めたら、私達を包んでいたそれは縮んで、ふわモコの飾りに戻ったんです。
浜辺は風と海の音しかしませんでした。
恐る恐る崖の上をみゅーさんと見上げると、いつの間にか、沢山のワイバーンが集まっていたんです。
それからすぐに、竜王様が迎えに来てくれました。
「無事であったか」
心配させてしまったようです。
「やみくもに魔法を射たれてな、一つすり抜けてしまったのだ」
「何ともありませんよ竜王様」
「みゅー、それぢぇ、上に人が来ちゃの?」
みゅーさんは、楽しそうです。
「上に連れて行ってやろう」
竜王様に掴まれて、崖の上まで運ばれてしまいました。
あちこち地面が黒くなっていて、騎士が人をワイバーンに乗せて、次々飛んで行きました。
「そこを見てみるがいい」
小さな岩影に紫の帽子が見えました。
「みゅみゅっ! ふみゅみゅ!」
みゅーさんが、タタと走って行ったので、私も追いかければ、ノーサスさんが薬草を静かに食べているところでした。
「みゅー、ノーシャシュ!」
「やあ、みゅー。それに、ネズ。来てたんだ」
疲れた様子のノーサスさんに、みゅーさんは果実水を渡していました。
「みゅっ、怪我しちぇりゅの?」
「大丈夫、巻き込まれただけだ」
「みゅみゅっ! ノーシャシュはここにじゅっちょ居ちゃの?」
「アサト様の鞄の性能が良いので、遠出が簡単に出来る」
「ふみゅ、コリュネリャがとちぇも心配しちぇりゅよ」
「まさか、それでここに?」
「うみゅ」
「白銀王様までですか?」
「我は、この小さき者達の保護者としておるだけだ」
「して、何故ここに?」
「みゅーが話していた海の守り神を見る為に、サンドベルの教会に侵入しただけです」
「フム」
「冒険者の一人の荷物に紛れて、最新部まで侵入出来た迄は良かった」
「ふみゅふみゅ」
「そいつは、ノーミードを捕まえていて、教会に売り渡したんだ」
「なんと」
「その時、『海の儀式』に使うから、もっと連れて来いと話していた」
「みゅっ、しょりぇぢぇ、教会の外に居ちゃ小人しゃんに伝言を頼んぢゃんぢゃね」
「伝えてくれたのか、良かった」
それから、教会の辺りに潜んでいて、儀式の準備に出掛けた一団に紛れてここまで来たそうです。
みゅーさんもそうだけど、ノームさん達は好奇心旺盛なんでちゅね。
アサトさんの心配顔を思い出してしまいました。




