ユニーの訪問 ・ みゅーの日記
カーリング皇国からユニー(ユニコーン)に連絡してくれたフィン。
夕方近くになって、今迄泣いたと言っても愚図るくらいだったローちゃんが、火が着いたように泣き止まない。
「どうしよう、どうしたのローちゃん?」
おろおろするアサトに、スフィナちゃんがルフィナさんを連れて来てくれた。
「ルフナこっちにゃ」
「わかってるわよ」
「ルフィナさん! ローちゃんが泣き止まないんだけど、病気かな?」
触ってローちゃんの熱を測ってくれたルフィナさんは、「熱はないから、大丈夫だと思いますよ」と笑ってくれた。
さすがお母さんだよ。
俺は、ローちゃんの大好きな子守唄を歌ってみる。
鳴き声は小さくなって、甘えるように俺の胸にすり寄る感じだ。
「本当にどうしちゃったのかなあ?」
「いちゃいいちゃいじゃないにゃ?」
「ふーみゅみょみょ~♪」
心配気に覗くスフィナちゃんと、一所懸命合わせて歌うみゅーちゃん。
ネズちゃんは、大人しくこちらを見ている。
疲れて寝るかと思った時に、テラスの窓をカタカタ揺らす風が吹いた。
「ぎゃあー、ふんぎゃあ」
俺が、そのままテラスの窓を開ければ、目映い光りを纏ったユニコーンが、冷たい瞳のまま入ってきたのだ。
何事かとハム太達も集まって来ていて、とにかく激しく泣くローちゃんをルフィナさんに預けようとして、一悶着。
「お手てを放してね、ローちゃん」
「ぎゃー!」
えーっ……。
「アサト、それがフィンディアルの言っていた『ティロス』ですね」
「はい。ルビが連れて来てしまって……」
「ティロス! 迷惑を掛けてはなりません」
ビクッと体を硬直させて、俺の胸にヒシッとしがみついたローちゃんは、それからブルブルと震えていて……。
「ユニーさん、ローちゃんは怯えているみたいですが」
「アサト。あなたにかかわったと聞いた時点で、予想はしておりましたが、ティロスは女神の気配を感じるアサトの側が、心地好くて離れたくはないのですよ」
「そうですか、すみません」
まったく、ルビがプリンが泣いているとか、訳のわかんない事を言って連れて来ちゃうから。
「いいでしょう。少しの猶予を上げましょう」
「猶予?」
「その様子では、あなたから離した後も、大人しくはしていないでしょう」
「それじゃあ、ローちゃんは家に住んでいてもいいんですか?」
「こちらは、世話がなくなりますし、あなたの方が大変になるでしょうが、それでも良いのですね?」
「勿論ですよ」
「私は、忠告しましたよ」
「あ、待って下さい。ローちゃんの音で踊らされてしまうのを、一時的に封印してもらう事は出来ますか?」
少しの間があいてから、ユニーは言った。
「では、ティロスをこちらへ」
ユニーの前に何とか降ろすと……ユニーがローちゃんの胸を、あの鋭い角で突いたもんだから、叫びそうになっちゃったよ。
それからローちゃんもパタッと倒れてしまい、急いで抱き上げて胸の辺りを確認したんだ。
すると、不思議な花のような模様が光っていて、それはすぐに跡形もなく消えてしまった。
その間にユニーも帰ってしまったようで、すでに姿がなかったよ。
何だか俺には冷たいなあ。
「ピカピカしゃん行っちゃちゃにゃー」
スフィナちゃんの可愛い声で、やっと場が和んだよ。
「リョーちゃんは、アシャトちょ離れちゃくなかっちゃんぢゃね」
「なーんだそうか。安心した。それにこれからは、家の子だよローちゃん」
桃のような柔らかな頬に頬擦りする。
可愛いに囲まれて幸せを感じるアサトだったが、その後帰って来た主人の機嫌を取る為に、多大な犠牲を払うことになったのでした。
水柱に入った魚がツンツンと突っついた。
静まり返ったこの食堂内には小さなお家が作られていて、その一つの窓にはポツンと灯りがついている。
「みゅみゅっ、ふみゅふみゅ」
ついこの間まで一緒に住んでいた真っ白鼠のネズは、この屋敷の広大で安全な庭が気に入り、知り合ったハムタックも居る庭で暮らす事を決めたようだ。
一方、食事が終わってから暇になってしまったみゅーは、大好きなアサトの事を考えたりして過ごしていた。
その時だ。
そう言えば、アサトが話す不思議な言葉を教えてもらったなと……。
「みゅっ! こりぇは、忘りぇないうちに書かないちょ」
それで、「ふみゅふみゅ」と言って真剣に机に向かっていたのだ。
『アシャトの言葉』
『ゆーふおー』は、『飛んぢぇいるお皿のこちょ。みゅっ、お皿が飛ぶなりゃ、みゅーも乗りぇりゅかなー? みゅみゅっ、いちゅか、皆ぢぇ乗りちゃいねちょ』
「うみゅ」
小さな手はすでに黒炭まみれで、リンゴの様に赤いぷくぷくホッペも鼻も、粉で黒く汚れてしまっていた。
なので、真剣に見直した紙には豆の様な手形と、ちよんと触れてしまった鼻の跡が追加される。
「みゅっ、しょりぇかりゃ……みゅみゅっ?」
ーー体が揺れるーー
「うみょ……」
コテン。
頭も働かせ過ぎると眠たくなるものだ。
眠りの精のみゅーも寝るんです。
おやすみみゅーちゃん、いい夢を。
で、紙には、まあるいホッペの跡が追加されたと。
めでたしめでたし




