プリンの妖精
「うっわー~ん」
庭で誰かが泣いている。
って、このデカ声は……。
「ルビー、ご近所さんに迷惑じゃないか。いったいどうしたって言うんだ?」
そう言いながら採取瓶をシュタっと用意するアサト。
ドッタドッタとテラスまでやって来たルビは、ビショビショに濡れた何か丸い物をアサトにソーッと差し出した。
「何だコレは?」
ハッ! まさかまた変な物拾ってきたんじゃ!
そう考えたアサトはルビに意見した。
「ルビさん、責任負えない物を拾ってきちゃいけませんよ」
「グスッ」
『あれ? ルビーが泣き止むと別の小さな泣き声が……空耳か?』
「ふっぎゃあ、ほっぎゃあ」
どうやら、ルビが差し出している謎の物体から泣き声がしているようだぞ。
「僕のぉ、プリンがぁ溶けてぇ、プリンも悲しいみたいでぇ、泣いているんだよぉ」
「はぁ?」
「アサトママァ、元のプリンにしてくれるぅ?」
とりあえず、採取瓶をアイテムボックスに収納したアサトは、恐る恐るそのビショビショになった物体を受け取って、すぐにクリーンをかけたのだ。
アイテムバックではなく、普通の布袋に入っていた中を覗けば、まん丸な物体がスヤスヤ寝息をたてていたのだ。
「ルビさん。今日は、何処で何をしていたのかな?」
うっすら笑顔を浮かべてルビに訊いてみる。
「うんとぉ、久しぶりにぃ、お山の向こうに飛んでぇ、森の動物さん達とぉ、ママのスイーツをー、食べてたんだよぉ」
お山とはランダルの山で、カーリング皇国の森の動物達とおやつを食べていたと。
「ふんふん」
それで、何だっけ?
あ、そうそう。プリンが溶けて泣き出したと。
俺は、袋から取り出した丸い物体を確認する。
「どう見ても人族の赤ちゃんだね」
「そうかなぁ、プリンのぉ妖精じゃないのかなぁ」
「……」
いや、今更ルビさんに言ってもね。
「それで、近くに人族はいなかったの?」
「うん。森の動物さん達とぉ僕のぉ、秘密の場所なんだよぉ」
ニコニコと嬉しそうに教えてくれたルビ。
ああ、そう。
うーん、ルビと話すとなんか脱力するなあ。
「ルビさん、あのね。これはプリンではなく、人族の赤ちゃんだね?」
「凄ーい。アサトママはぁ、なんでもぉ、すぐにわかるねぇ」
いやいや感心されてもねぇ……。
「いいかいルビ。この子が赤ちゃんだとすると、産んだお母さんがいる筈だね」
「この赤ちゃんのぉ、アサトママがいるのぉ?」
いやいやいや、俺じゃないねぇ……。
「俺は、ルビが黙っていなくなったら、心配して変になっちゃうかも知れないなぁ」
「僕はぁ、アサトママのところにぃ、ちゃんと帰るよぉ?」
ハァー……。
「今頃、この子のお母さんは、心配し過ぎて息をしていないかもしれないね」
「息をーしないとぉ死んじゃうよぉ?」
「俺もそうなるかもしれないなあ」
「アサトママ死んじゃうのぉ!」
尻尾をドッタンバッタンと地面に打ち付けるから、赤ちゃんも泣くはルビも大声で泣くわで、やぶ蛇だったさ。
クスン、俺も泣きたいぞ。




