呼子
アサトは焦ってもいたが、考えてもいた。
『賢いハム太ならこれで気づくかもしれない』
ライトの魔法を上空に上げて辺りを照らしてから笛を吹いてみた。
「ピー~ィ」
反応のないトラジタに鼻面を寄せていたハムタックは、聴いた事のある高い音に耳が震えた。
「モヒッ?」
「不思議な音がしました。まるで誰かを呼んでいるみたいですね」
おい達の事を心配していたネズが呼んでいると言ったじゃろか?
「モッヒ!」
まさかだじょ。まさかあれは……。
おいはまた全速力で向かったじょ。
「モッヒー~! モッヒー~!」
「ハム太ー~、出ておいで~」
モヒッ! あの声はやはり。
「モッヒー~!」
テチテチテチ。
「止まってメテル」
テチテチテチ。
可愛い足音がしている。
「ハム太!」
長い鼻面が見えて、あの和むぶち模様が見えた。
「ハム太! 無事だったんだね」
アサトは、ハム太の前に飛び出して迎えたが、ハム太は後ろを向いて可愛いミミズ尻尾を見せて伏せたのだ。
「ハム太……どうしたの? 何か拗ねているの?」
アサトがお尻の辺りを撫でれば、振り返って「モヒッ」と言ったのだ。
「ん? 乗れってこと?」
「モヒモヒ」
困惑したままハム太に乗ったアサトは、そのまま何処かに連れて行かれたのだ。
「ハム太何処に行くの?」
必死な様子のハム太が足を止めて伏せたので降りてみれば、誰かが道に倒れているのがわかった。
アサトはすぐにライトの魔法で辺りを照らし、倒れていたモノを確認すると。
「な、トラ次? まさか、さっきの大男に?」
息をしてないかの様に微動だにしないトラ次の体。
「モヒー」
力なくハム太がトラ次に鼻面を寄せている。
カーッとなったアサトの全身は七色に光り、それから信じられないくらいの魔力が溢れ出した。
それから、眩いばかりの光りがトラ次の身体を包んで、それは暫くの間光り続けたのだ。
光りが青白く変わった時、「キュ……ン」と微かな鳴き声がして……それから、「ケンケン」と咳き込む声がした。
「良かっ……」
アサトはそれだけ言うとバッタリその場に倒れてしまったのだ。
ハム太は急いでトラ次に鼻面を押し付けてみると、冷たくなりつつあった体温が、ほんのり温かくなってきたのを感じる事ができた。
「モヒモヒモヒッ!」
ハム太の必死な呼びかけに、薄っすらと目を開けたトラ次が鼻面をちょっと寄せる。
ハム太は、嬉しくて嬉しくてミミズ尻尾をぐるんぐるん回したのだった。
「ふみゅみゅぅ。やっちょ出りゃりぇちゃの」
倒れてしまったアサトのポケットからモゾモゾと這い出したみゅーは、そこに倒れているアサトに絶叫だ。
「ふみょー! アシャト!」
ピョインピョインと跳んでアサトの顔に張り付いた。
小っちゃなお手てでアサトの頬を叩いて起こすみゅーに、後ろから何かがバサッと被さってきてパニックだ。
「うみょー! 何しゅりゅの! 離れちぇ」
ジッタバッタともがき、それがアサトの鼻先を偶然蹴って刺激したものだから、アサトもやっと気がついたのだ。
「チュー! 会えた、やっと会えた。みゅーさん!」
「みゅみゅっ、真っ白なの。みゅみゅっ! ネジュちゃん?」
「はい。お元気でしたか?」
真っ赤なお目めが濡れている。
「うみゅ。みゅーはいちゅも元気ぢゃよ。ネジュちゃんはぢょうしちぇここに居りゅの?」
みゅーは満面の笑顔だ。
可愛いらしい会話なのだが、目覚めたアサトは引きつってしまう。
何しろ、自分の顔の上にはみゅーちゃんと『鼠』が乗っているのだから!
「うっ、あのあのみゅーちゃん……俺の顔の上で何してるのかな?」
「ふみゅー! アシャト起きちゃの? あのね、こっちがみゅーのお友達のネジュちゃんなの」
と無邪気にアサトの目の前に押し出したのだ。
「ギャア!」と叫び出したい気持ちを堪えていると、真っ白い鼠はアサトの鼻先に鼻をつけてから「キッ」と可愛いく鳴いたのだった。




