鳴き声
おいは、このネズと言う奴とこの道を行く事にしたじょ。
あの者はいつも「皆さんの邪魔になるから、奥を行こう」と、道から少し入ったところを歩くように言ったじゃろ。
おいは、それを守って少し入ったところを歩いたのだじょ。モッヒ。
「チュチュウ、そろそろ休みませんか? ハムタックさん」
「モヒ。お日さまがポカポカで眠たくなったじょ」
おいが、ヨロヨロしていたからじゃろ。
ネズはピョインと降りて、居心地の良さそうな場所を探してくれたじょ。
おいは、頬袋に入れていた種を食べて、ネズはどこからか木の実を拾ってきたんじゃろ。
隣りでカリカリと旨そうに食ってるじょ。
それから、少し横になっていたら知らないうちにスピスピ寝入ってしもうたじゃろか。
「くっそう! せっかくあの飲んだくれから引き取ってやったってのに、おい! ほら走れよ」
「……キュ……ン」
「モヒッ?」
懐かしい声が……空耳じゃろか。
「キュオン!」
おいは、跳ね起きて全速力で道の方に向かったじょ。
「おい! 起きろよ」
ドカバキと何かを蹴る音がしている。
おいは、叫んだじょ。
「モヒー~ッ! (トラジタ!)」
「なんだ! 王都の近くで魔物か?」
傷だらけで横たわるトラジタを蹴っていた大男は、おいの叫びに驚いたようだ。
「お前は! コイツと一緒にいた獣魔じゃないか。ちょうどいいや、コイツが駄目になったからお前で我慢してやるよ」
デッカイ武器を担いだ、上半身裸に革ベルトの目の鋭い男はそう言ったじょ。
「モシャー~ッ!」
こんな大きな男を乗せて走るなんて、どれだけ大変だったか……。
弟分のトラジタがグッタリしているんだじょ。
冒険者風の男は、縄を取り出しておいを捕まえようと投げてきたじょ。
「おおっ? 意外に素早いな。コイツより使えそうだ」
男は再度、おいに向かって縄を投げてきたんだじょ。
暗がりの中、しかも灌木の多いところで縄を振り回すなんて、アイツは余り頭が良くないじゃろ。
やはり、あちこちに引っ掛かってしまったようで、それを力ずくで枝葉ごと引き寄せているじょ。
おいは、少し大きな樹木を探しそっちに誘導してやったじょ。
それにしても、あの大男は獣魔を知らなすぎるじゃろ。おいは、魔天竺鼠だじょ? 夜行性だと知らないんじゃろか?
あんな投げ縄で捕まる筈ないじゃろが。
ガサガサとわざと草木を揺らして、樹木のところまで誘導してやったじょ。
「なんだ、そんな所で待っていたのかよ」
冒険者風の大男は、おいを追い詰めたと思ったのか、縄を手に持ち近付いてきたじょ。
おいは、わざと木を背にして待ってやった。
「大人しくしていろよ」
そう言って近付いてきて、おいの首に縄をかけようとしたんだじょ。
おいは、溜めていた力で軽く木の枝に跳躍して駆け上がり、大男の背中目掛けて渾身の頭突きをかましてやったじょ。
ついでにバリバリと爪で抉ってもやったら、「ギヤアー」と悲鳴を上げて逃げて行ったじょ。
モヒモヒ、意外に根性無しじゃったじょ。
そうじゃ! トラジタは大丈夫じゃろか?
「モヒーッ!」
全速力で戻ったじょ。
「あ、ハムタックさん! 大変です」
真っ白なネズが、トラジタの横に来ていておいに言ったじょ。
「この魔物さんが起きません!」
いやだじょ。
トラジタは、あの者から貰う大金でマスターが何処かから連れてきたおいの弟分だじょ。
いつだったか、あの者達と一緒に行った海は楽しくて、よくトラジタとはその話しをして「また行きたいね~兄さん」と言っていたんだじょ。




