誰じゃろか
「痛ったた。指を刺しちゃったよ。は~い。今開けますよ」
透明な壁には、あの者とは似ても似つかない者が立っていた。
誰じゃろか?
「よお、チャムル。今日は休みか? 中にアサトが来てんのか?」
「アサト様が来て下さる訳がないでしょう。嫌味ですか? グラドさん」
随分と弱々しい者じゃろ。
「ハッハ、すまねえ。別に落ち込ませる為に言ったんじゃなくてよ、こいつがここで、アサトを呼んでいたから、てっきり来てるんだとばかり思っちまったんだ」
おいをチラ見した奴は、ため息をついたじょ。
「ハァー。ここのところアサト様を訪ねてくるモノが多いのですが、それが殆ど人外なんですよね」
おいの他にも、あの者に苦情を言いに来るモノがいるのじゃろか?
「ハッハ、そりゃあ、アサトだからな。訪ねてくる奴は並みじゃねぇだろうさ」
この、やたら五月蝿い奴も誰じゃろか? あの者をよく知ってそうだじょ。
おいは、テシテシテシと主張したじょ。
「じゃあ、アサトは来てねぇんだな?」
「来てくれていたら、今頃お店は繁盛していますよ!」
モヒッ。今度は怒り出したじょ。
「チャムルは、アサトに頼りすぎなんじゃねぇか? お前の店なんだから、お前の商売をやりゃいいじゃねぇか。アサトは言ってたぞ。チャムなら大丈夫だからってな」
「……」
何も話さなくなったじょ。
おいは、暗くなってしまった奴に、頬袋から取って置きの種を出して渡そうとしたんだじょ。
「駄目だよ。品物と交換出来るのは硬貨だけだからね」
と注意されたじょ。
「おい! お前を元気づける為にくれたんじゃねぇか」
おいは、種を口にモガモゴ入れなおして、プイッと尻を向けてやったじょ。
五月蝿い奴の方が、話しがわかりそうだじょ!
「商売とは、儲けなければ商売とは言えません」
「まあ、お前の店だからそれでいいのかもしんねぇが……」
「わかっています。アサト様のお店には、こうやって人外まで訪ねてくる、手広ーいお店だったと言う事は。でも、それを壊してしまったのは私です。今のこの、誰も来ないお店こそが自分のお店だって。だから、いいんです。しっかり受け止めないと進む方向が見えないですからね」
「そか。お前も中々考えてんだな。だが、相手の心を汲んでやれねぇんじゃなぁ」
「私には協力してくれるティナがいるからいいんです!」
「ハッ、オレが口出しする話しじゃねぇな。邪魔して悪かった」
「いえ、ちょっと待っていて下さい」
店の中に入ってしまったチャムルは、今しがたまで縫っていた物を取って返した。
おいの前に見たくもない面を出すとは何だじょ?
「モシューッ!」
「うわわっ、そんなに怒る事ないだろう。これをアサト様に渡してくれよ」
人がしている手袋に何かが付いているじょ。
「これで、アサト様に毛繕いでもしてもらってよ。ミトンシリーズの新作で自信作なんだ」
モヒ? 毛繕いとは毛繕いじゃろか?
おいは、好意は大歓迎だじょ。
だがもしや、おいの嫁に成りたいとかではないじゃろな。
クカクカしていたら、あの五月蝿い奴が「アサトが言った通りだな、お前の店。つ、妻と子供達と今度覗きに来る……ってな」
「はい。どうぞご贔屓にして下さい」
ニコニコした変なのとおいもそこで別れたじょ。
テシテシテシ! それじゃあいったい、あの者は何処におるのじゃろか?




