ハムタック君の逃走記
「わしゃもう駄目じゃ」
「モヒモヒ」
先日とうとう、黄色と黒色の縞模様が自慢の相棒が売られた。
「あ~あ、あの美少女が来なくなったからだよ」
「モヒヒ?」
『いや違うじゃろ。マスターが酒浸りだからじゃろ』と不満を伝えてみるハムタック。
そもそもは、そこそこギルドで移送の仕事をしていた獣魔術師だったのだ。だがある時、黒髪の美しい少女が訪れた事から転落の一途を辿る事になった。
『おいは、魔天竺鼠という魔物なんだじょ』
~ここからは、ハムタックでお送りします。~
確かにあの者は、おいもよろめくぐらい良い男なんじゃろが。
テシテシテシ。
しかし、マスターには怠惰をもたらした者でもあるのじゃろ。
テシテシテシ。(前肢で叩く音)
その晩も呑み仲間のジジイがやって来て、倒れていたマスターを発見して教会に連れて行ったじょ。
それから戻ってきて、おいも何処かに連れて行こうとしたじょ。
「お前もまともに喰わせてもらっとらんじゃろ? オレがいいところに紹介しちゃるから、大人しくしとけよ」
ゲヒヒと酒臭い息をかけたから、鼻息で吹いてやったじょ。
「うぎゃー! 喰わんでくれー~」
よくわからんが、驚いて逃げたじょ。根性がないジジイだ。
檻から出されて清清したから、そうだじょ! あの者に苦情を言わんと駄目じゃろ。
テシテシテシ。
決して、白くて柔らかい手で優しく撫でてもらいたいからじゃないじょ。
芳ばしい木の実や種をくれるからじゃないんだじょ。
テシテシテシ。
あの者は人気者で、皆が集まるあそこに行けばいるじゃろ。
おいは、何度も行っているから知っているじょ。
ハムタックは、ミミズ尻尾をぐるんぐるん回して向かったのだ。
そこにはとうに、居ない事を知らずに。




