要求
「随分と具体的ですね」
帰ってきた早々にフィンは、言った。
「うん、そう言えばラクーンの実験が失敗した後、片付けていなかったかもしれなくて……」
「そうでしたね。あの時、舞台の準備か何かで忙しかったですから、忘れてしまったとしても、仕方がないですよ」
「うん……」
「心配しなくても、人質にしているのですから、大切に扱ってますよ」
「そうならいいけど、みゅーちゃんの家の、冷庫の品に全く変化がないから生きているのか心配で……」
涙ぐむアサトを、優しく抱き締めるフィン。
まだ試作段階の、映像の魔道具の設計図と魔方陣を入れた鞄を作った。
多分、山頂の火口付近を取引場所にしたのは、人の隠れる場所がないからだ。
フィンは、考えがあります。と言って、王宮に行ってしまい、アサトは竜の白銀王に頼んで、養い親のグラドの山小屋に連れて行ってもらった。
フィンの方では、デルタからもたらされた情報で、カーリング皇国に調べてもらっている。
翌朝、独りで山頂を目指したアサト。
フィンに教わった風魔法で、ジャンプしながら登って行く。
火口の辺りを探してみれば、赤茶けた大きな岩があって、すぐに、それだとわかる事が出来た。
「まだ、時間があるから、少し離れていよう」
アサトからも、近づけばすぐにわかるから、敢えて、何もない場所で待機することにする。
『どうか、みゅーちゃんが無事でありますように』
もう、何度も祈った願い事を念じるアサト。
日はもう傾き、辺りが赤く染まってきた頃、約束の赤茶けた岩の前に立った。
「どこからも来る気配がないなあ」
その時だ。
「そっとしゃがめ!」
岩の下の隙間から、圧し殺した声が命令する。
アサトは、言われた通り腰を落とした。
「約束の物をこの穴に入れろ!」
「みゅーちゃんは? みゅーちゃんを返してもらってからだ」
「この岩の後ろの箱に入れてある。早くしろ!」
「わかった」
アサトは、用意した鞄を穴の中に入れて、すぐに岩の後ろに回って、小さな箱を手にするのだが……。




