馬車の中
最初に、みゅーは、貰ったカバンの中身を確認した。
すると、驚いたことに、丸くて小さな家が入っていたのだ。
「みゅみゅみゅっ! しゅごーい」
ちょっとだけ出して、中を覗けば、小さなキッチンも、テーブルもイスも揃っている。
そして、屋敷を出る時に泣いて諦めた、モコふわ布のハンモックが中央に作られていた。
もう、嬉しいのか、寂しいのか分からなくなって、また涙が出てしまう、みゅーなのだ。
「アシャト……」
ガタガタ揺れていた馬車が一際揺れて、壊したくない一心で、お家をカバンにしまう。
しかし、この小さな家はとんでもない代物で、作った者がまた、特別な者なのである。
女神が造った身体を持ち、中身は地球人。アイデアも技巧も、兎に角凄いのだ!
まず、家の底部分に、大量の魔石入りの濃縮ビーズが詰め込まれていて、家の中の温度は、常時快適に保たれている。
それから、この家には、付属付与の魔法がかけられていて、それがみゅーになっているので、他人に渡ることなく、必ずみゅーの元に戻ってくるようになっていた。
他にも、考えられない工夫が施されていて、正直、旅の心配が要らない程なのだが……。
◇◆
それから、馬車の中を見回したみゅー。
すると、テチテチテチと背後から、裸足で床を走ってる様な音がする。
「んみゅ?」
ヌロッと濡れた鼻が突き出された。
「みゅみゅっ!」
「ぷき?」
丸い顔同士、斜め45℃に傾げれば、可愛いだけだった。
みゅーは、アサトの屋敷から一人で出た事がなかったので、初めて間近に見た小動物に、興味津々で手を伸ばした。
ペトッ
「みゅみゅっ! ちゅめちゃい(冷たい)」
ふんふん
『お鼻ぢぇ臭いを嗅がれちぇ、くしゅぐっちゃいの』
「ぷき、ぷきぷき(ちょ、何なの)」
ーー以後、普通に喋りますーー
「お鼻濡れちぇりゅの」
「さっきまで、泳いでいたからさ」
「しゃむく(寒く)ないの?」
「君は、誰かに飼われていたんだね。野良はこのぐらい普通だよ」
「しょーなの」
「あれ……どうした……何だか眠たく……」
パタリ
『みゅ、粉を撒いちゃっちゃ』
無意識に、眠りの粉を撒いてしまうみゅーは、みゅみゅみゅみゅと困っている。
目の前には、尖り鼻に尖り耳が二つ、長~い尻尾の小動物が寝入っていた。
みゅーは、アサトから貰ったカバンの中から、毛布を出して掛けてあげて、自分もその隣りに入って一緒に寝たのだった。
後で、商人に発見されて、ポイ捨てされるとも知らずに。