懐かしい話し
それから、暫くの間、ガルーダは姿を見せなかった。
みゅーは、地道に歩いて、やっと草原を抜けたのだ。
そうして、ビュービュー言ってる崖に近づけば、ふわっと谷風に煽られて拐われた。
今度は、強い風に乗ったみゅー。
「みゅみゅーっ!」
危険だと言うことも分からず、風に乗ってご機嫌だ。
「くりゅくりゅくりゅり、くりゅくりゅりゅ」
すると……。
「くりゅくりゅくりゅり、くりゅくりゅりゅ」
誰かが返したのだ。
「一緒に歌っちぇくりぇちぇりゅ!」
「誰しゃんなの~? 私、みゅー」
「誰しゃんなの~? 私、みゅー」
「誰しゃんなの~? オレ、ドッペンー」
「ヂョッペンしゃん! ぢょこ(何処)~?」
「ヂョペンしゃん! ぢょこ(何処)~?」
「ドッペンさん! ここ!」
みゅーは、硬い物にふいっと掬い上げられた。
「ここ」
「ここだね」
「ここだよ」
みゅーが目をあけると、真っ白な大きな猿が、自分を見詰めていたのだった。
「ヂョッペンしゃん? 私、みゅー」
「みゅー、来た」
「来たね」
「来たよ」
みゅーには、別々の声に聞こえて、とても面白いのだ。
「みゅみゅっ! 楽しい」
「楽しい」
「楽しいね」
「そうだね」
ふんわりした雰囲気が広がる。
「ここで、何しちぇりゅの?」
「退屈」
「退屈だね」
「してたね」
「みゅーね、山に行きちゃいの」
すると、ドッペンは、腕を組んで考え始めたのだ。
「んー、どうする?」
「どうしようか?」
「どうしよう?」
◇◆
「うん」
「そうしよう」
「それがいい」
「連りぇて行っちぇくりぇる?」
「駄目」
「それは駄目」
「駄目だね」
みゅーは、しょんぼりした。
「泣いちゃうよ」
「泣いちゃうね」
「泣かせたくないね」
「遊ぶ」
「遊ぼう」
「それがいい」
突然駆け出したドッペンは、みゅーを胸の毛の奥に突っ込んで、崖を横走りしたり、岩を跳んだりした。
「一緒に駆けっこ」
「駆けっこ」
「一緒だね」
みゅーは、ぎゅっとドッペンの毛を握って、頑張って顔を出せば、あっという間に山裾まで近づいていたのだ。
「みゅみゅ、速~い、竜しゃんみちゃ~い」
「竜しゃんみちゃ~い」
「竜しゃん?」
「竜!」
ドッペンは、ピタリと止まったので、見上げたみゅーは、目が合った。
「竜を知ってる」
「竜の知り合い」
「まさか……」
「ぢょうしちゃ(どうした)の?」
急に震えたドッペン。
「黒髪」
「黒い目」
「竜に乗ってた」
黒髪、黒い目と聞いたみゅーは、驚いて歓喜した。
「みゅみゅみゅっ! アシャトを知っちぇりゅの?」
「アシャト?」
「アシャトか」
「魔王だよ」
「アシャトは、魔王ちぇ違うよ? 優しい女神様ぢゃよ?」
「女神?」
「違う違う」
「魔王」
深く頷いている。
「もしかしちぇ、アシャトに怒られちゃの?」
「アシャト恐い物くれた」
「突然割れた」
「我等、とても驚いた」
みゅーは、いつも不思議な物を作り出す、アサトの姿が浮かんで懐かしくなってしまった。
「アシャト、会いちゃいな……」
「「「うへ!」」」
「会いたくない」
「会いたくないね」
「そうだね」
みゅーがアサトの事を考えている間に、岩の上に置かれていた。
「お別れ」
「お別れだね」
「仕方ないよ」
恐ろしいものには関わらない。
みゅーは、ドッペンが聖獣だと言う事は、何となくわかっていた。
だから、こう言った考えは、理解出来たのだ。
「ありがちょう。ヂョッペンしゃ~ん!」
背中はもう見えないが、きっと聞こえただろう。
ドッペン・ゲンガ【聖獣:山彦の精。山で聞こえた声を返すが、何分暇なので、普段はイタズラばかりしている。竜を誘き寄せては、竜騎士に遊んでもらっていたが……。】




