15話
「もう一度会いに行く、ですか?」
全員が集まったところで提案すると、小淵さんは不思議そうな顔をした。課題をしていた宵川さんも手を止めてこちらをこちらを見ている。
「…亀梨さんの件はもう終わりました。今回の件は私も反省しているんです。行動に移すまでがあまりに性急過ぎました」
「まだ終わってないよ。亀梨さんはまだ諦めてないはず」
「亀梨さんが諦めてないからなんだと言うんですか?宇川君がフった時点で可能性は潰えました。これ以上は何をしても無駄です」
「でも、宇川君が特定の誰かと付き合ってるわけではないよね?」
「それもわからないでしょう。私達が知らないだけで交際相手がいる可能性はあります」
「それでもいるなら亀梨さんは気づくでしょ」
「…継野君。少しムキになっていませんか?一つ一つに時間をかけていてはこれから持ちませんよ」
「次が来ないかもしれないでしょ」
「…その時はその時です。仕方がないでしょう」
気まずい空気が流れる。紅葉は俺を止めようとして袖を引いているし、新川先輩も不安そうな顔をしている。
「ごめん」
「いえ、私も。すみません」
おかしなことを言ってるのは俺の方だ。
「…私もできることなら亀梨さんの相談を続けたい気持ちはあります。それに、継野君がしようとしていることを止める気もしません。ですが、私はここで別の相談者が来るのを待っていようかと思います。部長も副部長もいないのは良くないでしょうから」
「ありがとう」
「いえ。手伝いが必要になったら連絡をください」
「あの、オレも…」
「はい。聞かなくてもわかります」
「おう、サンキュな、瑠花!」
「…はい」
「…残る」
「え〜っと、私は…」
「私は、継野君達について行きますね。3年ですから」
「なら、私は残ります!」
新川先輩が手伝ってくれることになった。
***
『それで具体的には何をするのでしょう?」
夜、新川先輩が相談部のグループにで尋ねてくる。
『何をすればいいんでしょう?』
『え?もしかして継野先輩、何も決めてなかったんですか!?」
『うん。勢いで?』
『考えてから言うべき』
『ごめんなさい』
『まずは明確な目標を定めるのが良いのではないでしょうか』
『私は元の関係に戻してあげるのがいいのではないかと思います』
『そうですね。それを目指したいです』
部屋のドアがノックされる。
「今大丈夫?」
「おう、どうした?」
ドアが開き未来が顔を覗かせる。
「…テストある?」
「テスト?」
「1年の時の」
「あー…残してあるはず。今必要か?」
「今じゃなくてもいいけど」
「明日までに探しておくよ」
「ありがと。…おやすみ」
「おやすみ」
ドアが閉まったのを確認して、再び画面に視線を戻す。
『継野君?どうかしましたか?』
『すみません。妹と話してました』
『妹さんいらっしゃるんですね』
『はい』
『まずは亀梨さんに会わないことには始まらないですよね』
『そうだね』
『気をつけてくださいね。気性が荒くなってるでしょうから』
『小淵先輩、猛獣じゃないんですから』
『お気をつけて』
紅葉のことを待っていたようだし、用心するに越したことはないだろう。
『あっ、そういえば』
未来と話している間に紅葉も来ていたらしい。
『今日あいつに告られたぞ』
…は?
『え!?水月先輩、マジですか!?』
『マジだぞ。休み時間に呼び出された』
『修羅場』
『予想できたことですけどね』
『なんで言わなかったんだよ』
『普通に忘れてた』
『忘れるか?普通』
『どうでもいいし』
『1年の女子に広まったら大変なことになりそうですね!』
『宵川さん、やめてね』
『しませんよ!?』
『それで、ついでに何個か聞いといた』
『待て、何をだ』
『前に付き合ってたやつはどうしたんだよって』
『馬鹿か!』
『そりゃ、光に比べたらそうだろ』
『そう言う話じゃねえ』
何してんだあいつ。
『してしまったことはしかたありません。それで、宇川君は何と?』
『今はあなたの方が好きですだって』
『うわ』
『あの〜、先に言っときますけど1年だからじゃないですよ!一緒にしないでくださいね!』
『で、オレはお前のことなんて好きじゃないって言ったらいきなり膝を地面につけ始めてた』
『たぶん崩れ落ちたんですよ!?』
『そしたらその状態のまま、どうしたら俺のこと好きになってくれますかとか言われた』
『それで?』
『無視してなんでオレのことが好きか聞いた』
『宇川君に同情するか迷いどころですね』
『走ってる姿が綺麗で一目惚れした、だって』
『やっぱり大会で見たんだな』
『あと、陸上部には戻らないんですかって聞かれた』
『陸上部の練習を見てたようですしね』
『で、オレ光と付き合ってるんだけどって言ったら、俺の方が幸せにできますって言ってた』
『ナルシスト』
『水月先輩はなんて答えたんですか!?』
『いや、こいつ話になんねぇわと思って教室に戻った』
『少しは同情の余地があるかもしれませんね』
『そうですね』
『終わりだ!』
『水月さんと宇川君が1年生の廊下でばったり出くわしたら大変なことになりそうですね』
『紅葉には遠慮してもらいましょうか』
『えっ!手伝うぞ!』
その後、紅葉も部室に残ってもらうことになり、新川先輩と2人で亀梨さんの様子を見に行くことになった。紅葉は途中で寝てしまったのか反応がなかったが。時間も経ったので解散ということになり、俺も未来に頼まれたテストを探し出し、机の上に置くと眠りについた。
「あの、水月先輩!少し時間いいですか?」
「あっ?誰だよ」
「宇川航平です」
「あー…」
(何か役に立てるか?)
「で、なんの用」
「あの、ここじゃあれなので…中庭までついてきてくれますか?」
「ちっ」
「付き合ってください!」
「前に付き合ってたやつはどうしたんだよ?」
「今はあなたの方が好きです」
「オレはお前のことなんて好きじゃない」
「…どうしたら俺のこと好きになってくれますか?」
「なんでオレのことが好きなんだ?」
「え、あの」
「なんでオレのことが好きなんだ?」
「1年前の夏、走ってる姿が綺麗で、一目惚れでした!
…あの、もう陸上部には戻らないんですか?」
「オレ光と付き合ってるんだけど」
「俺の方が幸せにできます!」
(こいつ話になんねぇわ)
「えっ、あの、どこに?待ってください!」