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第八話 角直しと見えた希望

いつも拙作をご愛顧いただきありがとうございます。

非常に申し訳ないことですが、九話以降は毎日投稿ではなくなります。

次回更新は明日の夕方頃です。

 何事も壊すのは実に簡単なのだが、それを直すとなると非常に難しい。

 まあ今回に限って言えば、綺麗に折れたものをくっつけるということで、幾分か修復にかかる手間は少なくなっている。

 これほど美しい断面を残して、女の頭に生えた角をへし折れる人間は、きっと俺以外に存在しないだろう。

 存在してたまるか。

 

「さて、どうやってその角直すよ」

「うむ。本来であれば魔力を用いて自己修復を行うのだが、その魔力が全く足りん」


 イースが前方に置かれた角をつつく。

 角の先端は少々湾曲した形をしているためにころころと揺れる。

 

「なんとかして魔力増やせないのか? サプリメントみたいな」

「さぷりめんとはよくわからんが、角が直らん限りは自然に回復する魔力任せになる」

「自然回復の魔力か……。自己修復する為には何日分くらいの魔力が必要なんだ?」

「……」


 イースは黙って右手の四本の指を立てた。

 なぜ口で言わないのか。

 かなり嫌な予感がする。

 しばらくお互いに睨み合い、沈黙が場を支配した。

 畜舎は隙間風が絶えず、尻の下に敷いた干し草がへんにゃり曲がっていくのを感じた。

 

「四日、じゃないよな」

「……ああ」

「四十日、でもなさそうだな」

「……すまない」

「四年だな」

「うむ!」

「アホか」


 四年という期間は長い。

 具体的には俺のこれまでの人生の四分の一くらい。

 大学生が受験で勝利を得てから社会に羽ばたくまでの一般的期間。

 いわゆるオリンピック開催のインターバル。

 あるいは閏で調整が必要になる期間。

 つまり結構長い。

 四年間こいつの角が直るのをただ待つことは流石にできないので、なんとかして魔力を使わない別の方法でくっつけなくてはならない。


 そこからは様々な方法を試した。

 まずイースが角を手でくっつけて、しばらく待つという方法を試した。

 三時間経っても変化が無かったので完全に無駄骨だと気づいた。

 接ぎ木の要領だったのだが、木ではなく角ということに気づくのが遅すぎたし、仮にくっつくとしても、効果が出るには日数が必要だろう。

 そして早々に万策尽きたので、シショーに助言を願い出た。

 シショーは少々呆れながらも小さな木箱を手渡してくれた。


「中身は何ですか?」

「接着剤です。まあのりですよ」


 木箱を開けると、中身は白く粘度の高い液体が入っていた。

 懐かしい匂いが漂い、俺は子供の頃の図画工作を思い出した。

 おそらく、これはデンプンのりだろう。

 これならばイースが誤飲しても悪影響はなさそうだ。

 流石にしないだろうが。



「これを飲めばいいのか?」


 どうやら杞憂ではなかったらしい。

 なるほど、この女は要らぬお節介が無いんだなぁ。

 そう思っていると、呆れたような声色でシショーが言った。


「……接着剤なので、その角に塗ってくっつけてください」


 するとイースは木箱に手を突っ込んでのりをいくらか手に乗せ、角に塗り込み始めた。

 一気に手のひら及び手の甲が白く染まってべっとりだ。 

 

「イースさん。こちらに刷毛がありますのでこちらを使ってください」

「おお、助かるぞ」


 準備のいい事にシショーはもっさりとした刷毛を用意していた。

 イースがのりが付きっぱなしで受け取った為にもはや刷毛の必要性が問われる事態だ。


「それと、断面にだけ塗ればくっつきますので」

「そうなのか?」


 真っ白に染め上げられた角を見て、俺はため息を一つついた。

 シショーはわざわざ布で角についた無駄なのりを拭き落とし始めた。

 献身的なその姿を見て、存外に優しい人なのかと思ったが、それ以上に何か作為的な物を感じた。

 何やら企んでいるのか、とにかく不自然であった。


「これでいいか?」

「少しのりがはみ出していますが、まぁいいでしょう」


 シショーは少し、と誤魔化しているが実際には相当の量が接着面から溢れ出していた。

 遠目に見ると白いシュシュか何かを着けているように見える。

 これは意外にもお洒落なのではないか。

 まあモダンなファッションとして受け入れろ、と言われて即座に拒否するくらいには不格好であるが。

 

「接着面をきっちりと固定しておくべきでしょう。包帯でも巻きますか?」


 シショーがローブの中から円柱状に巻かれた包帯を取り出した。

 常に携帯しているのだろうか。

 なんにせよ、固定という案には大賛成である。

 ちょっと水を浴びればぽろりと取れてしまいそうな一抹の不安を抱えているのだから。


「むぅ……」


 しかし、イースはシショーの素晴らしい提案に何やら不満の色を示している。

 何やら頬を膨らませているので、指先でつついてやろうかと嗜虐心が膨らんだ。


「私としては赤い色を所望したいのだが……」

「赤色の包帯は持っていませんね」

「血でも付けてろ」

「まあジンさん、そう言わずに」


 シショーはそう諌めると、俺の手にいくらか銀貨を握らせた。

 銀貨十五枚、つまりパン四十五個、俺十五人分。

 悲しい換算が脳内で始まった。

 

「一緒にリボンでも買いに行ってあげてください。ちなみにお釣りはいりません」

「……わかりました」


 嫌々ながら俺はお使い兼イースのお守りを引き受けることとなった。

 色々と面倒事に踊らされてきた為に、俺は疲弊しきってはいるのだが、シショーはまるでそんなこと気にはしていなかった。

 口に出してもない気持ちを読み取れ、というのも酷なのかもしれんが。


 

「ああそうだ。角を隠す魔法をまたかけませんとね」

 

 シショーは思い出したようにそう言うと、人差し指をすっとイースに向け、少しの間を作った。

 そうすると満足げに微笑みを浮かべた。

 ちなみに俺から見るとまったく角は隠れていない。

 なぜなのかはわからないがまったくと言っていい程隠れていない。

 

「おお、やはりすごいなこの魔術は」


 姿見に映った自身の姿を見てイースが感服の声を上げる。

 しかし、俺から見れば鏡の中も鏡の外にも角がある。

 四本の角。

 これはどういうことかとシショーに以前聞いたところ、わからない、とはっきり返されたので気にしないことにした。

 もしかして、未だにドッキリである可能性は消えていないのではないか。

 まあ、気にするだけ無駄なのだろう。


「なんにせよ角が直ってよかったです」

「うむ」

「魔族が角を失っているなんてとんでもないですからね」

「そうなんですか?」

「ええ、角が無いと魔族は魔力を上手く得られませんから」

「そうだったんですか」

「当然だな!」


 魔力がどのような物かはわからないが、おそらくあのイースが使った魔法を使用する為に必要なのだろう。

 あの二本の角がそれぞれ避雷針の様に魔力を引き寄せているのだろうか。


「魔力が戻れば身体能力が上がりますからね。早く良くなるといいですね」

「心配せずとも任せておけ!」


 魔力が戻れば身体能力が上がる。

 前にイースも似たようなことを言っていた。

 この言葉の意味するところに一つ、重大なことがあるかもしれない。

 それに気づいた俺はシショーに質問した。


「あの、その身体能力が上がるって、頭も良くなったりします?」

「ええ、もちろん」


 その瞬間。

 俺は腕を思いっきり突き上げた。  

 つまり、イースが魔力を取り戻しさえすればこの五歳児並の知性と付き合うこともなくなるということである。

 なんとしても早いところ魔力を取り戻してもらおう。


「早く魔力取り戻そうな。俺も協力するから」

「おお、流石はジンだ! 頼りにしてるぞ!」


 そう言ってイースは俺の肩を掴むのでそれを払い除けて、そして思う。

 こいつが魔力を取り戻して、賢くなったとして、もしかしたら日本に帰る手段を思いつくかもしれない。

 いずれにせよ希望は見え始めた。

 勇者を見つけて一発殴って、イースの魔力を取り戻す。

 それがとりあえず、今の俺の目標だ。


「さぁ早く街に出向くぞジン!」

「そうだな」


 そうして、俺とイースは街に向かった。

 

 


 

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