モブ、ボブと。
「じゃーん!」
ヴィルヘルム様ご機嫌セット!
「本?」
「3冊も」
「えっへっへー、さあご覧あれ」
酔っているリリアンのテンションは高めだ。、
「ん?表紙にウィリアム・クロイツェル・・・、他にもミカエル、ミリエル、リリーこれは・・・」
「中を見てのお楽しみ、です!」
ペラリと本の1冊を捲るアーサー
これは、子供の手と足の判子?
「ね、どう?どう?」
どう、と言われても・・・
返答に困り、叔父へと視線を向けるアーサー
「リリー・・・」
見たことの無い優しげな表情で手形を撫でるヴィルヘルム
に驚く
「これはね15回分しかないの!」
「ああ、それは素晴らしい考えだな」
「ええ・・・?」
困惑するアーサーを置いて、盛り上がる2人
「ここに身長体重、手足を成人まで毎年付けるの」
「楽しみだな・・・」
「でしょ!」
写真のない世界だから思い出は記憶の中にしかありません、可能な限り思い出を残すなら日記しかありませんからね!
「これは出産日の数字だけど、少し前に測ったら伸びてたのよ」
「良いな・・・」
これが?と思うアーサーだが
ヴィルヘルムの様子はとても嬉しそうなので口は挟まない。
「こっちも見て」
そう言いながらポンとヴィルヘルムの膝の上に乗るリリアン
ギョッとするアーサー
いつもの事の様に腰に手を回し支えるヴィルヘルム
「!?」
「ミリーはやっぱり1番小さいの、ウィルは力が強いわ」
「ああ、男の子だな」
ニコニコと気にすることもなく談笑を続ける2人
見た事ない叔父の姿に困惑しきりである。
しかし、こうして見ると親子と見えなくも・・・
いや、親子と言うには距離が近い、恋人、想いあっている男女の距離だ、親子はあそこまで身を寄せないし、腰に手を回したりしない。
同級生が叔父上の嫁・・・
既に跡継ぎも出産・・・
どういう人なんだろう?
この1年、再教育でミッチリ時間を奪われていたアーサーは世間の事も正式に王子妃になったアリシアの事も詳しくは知らない。
野営が終わったら沢山知らなければならない事があるな、そう思っていると
「さあ、そろそろ午後の訓練行くか」
スッとリリアンを横抱きにしたまま立ち上がるヴィルヘルム
「・・・」
「ヴィー、私は行かないわよ・・・」
「む、すまない、つい癖で」
癖!?癖になるほど四六時中こんな感じ!?
「もう、ほら食事の片付けしてから帰るから、お仕事全うして帰って来てね、ウィル達と待っていますから
ちゅっとキスをして、下ろされるリリアン。
「ああ、しっかり鍛え直してやるさ」
「・・・」
森の中に居た時より、遥かに機嫌のいいヴィルヘルム
機嫌は良いけど気合い入り過ぎているように見えるのだが、俺生き残れるかな・・・
「行くぞアーサー」
「は、はい、あの姉、上?ご馳走様でした」
「はい、お粗末様でした」
ニコニコと返事をするリリアン
気合い十分にテントを出て行くヴィルヘルム
ため息を吐くアーサー
三者三様だが、1人だけ気分が落ちていた・・・
「嬢ちゃん助かったよ」
「リリアンちゃん手伝うわ」
ひょいとテントを覗き入って来るマイクさんとアリーさん
「ありがとうございます」
「ありがとうは俺の台詞だよ、副団長の機嫌が良くなっていて本当に助かった、何やったんだ?」
「特に何も、食事して、子供達の様子を話しただけですよ」
「機嫌良くなりすぎて王子様は死にそうな顔していたけどね」
「いやいや、坊ちゃんにはあれくらいで丁度いいさ、若いんだからな、はっはっはっ。
所で、嬢ちゃん来るのやたらと早かったな、手紙届いたの今朝か昨夜だろ?貴族の御夫人がそこまで暇してるとは思えんのだが」
「予定は空けてました、こうなると思って」
「・・・マジか」
「マジです」
「副団長がこうなるって?」
「予想は付いてました、ここまで出番が早いとは思っていませんでしたが」
「副団長、尻に敷かれてんのかよ・・・」
「この場合、リリアンゃんの読みじゃないの、褒めるのは」
「いや、だが、副団長ぉ・・・」
あんな大将知りたくなかったと嘆く副官であった。
「帰りますね、お疲れ様です」
「お疲れ様、道中気を付けてね」
「おう、ありがとな嬢ちゃん」
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パカラパカラ、ガタゴトと再び帰り道2時間程の道程です
ひと口ワインが入った事で眠気もあり、一定のリズムの音も手伝いウトウトとしていると
ピタリと止まる馬車
「え?」
まだ道のりの半分の手前くらいですよね?
どうしたんだろうと、小窓からボブ爺に聞く
「どうしました?」
「先行して警戒していた護衛が戻って来まして、賊が居ると・・・」
賊、王都から約1時間の位置となると少し近過ぎますね
騎士団の野営地とも位置関係を考えると、元々治安維持を考えていた野営だったのでしょうか
そう言えば野営訓練の割には大規模な野営地の設営と人数でしたね。
ヴィルヘルム様とアーサー様の護衛かなと思いましたが、そうではないのかも?
「如何致しましょう、見える範囲では5人の賊、馬が3だそうです、こちらは私を除き護衛は10人、十分対処出来ますが・・・」
うん、私が外へ出る時はヴィルヘルム様が心配して王都内でも護衛5人、王都外への場合は10人と過保護だなあと考えていましたが、これは私が甘かったですね、ありがとうございますヴィルヘルム様。
護衛の実力はヴィルヘルム様が厳選しただけあって、かなりの腕と聞いていますが、5人の賊にこちらは何人で対処します?
護衛10人で対処すれば5人の賊はいけるでしょうが、私の乗った馬車の護衛を0には出来ません、恐らく護衛隊長も頷かないです。
腕の立つと言っても数を多めにして、かつ馬車の護衛、7対3か8対2くらいの割合でしょうか?
でも騎士団の野営地の規模を考えると嫌な予感がします、賊は本当に5人だけですかね?
「・・・」
「奥様?」
うん、安全第一
「騎士団の野営地まで戻りましょう、私達が危険を冒す必要はありません」
そう言うとボブ爺は
「畏まりました、私もそちらの方が宜しいと存じます」
「うん、引き返しましょう、後方の警戒を厚く、あと1番脚の早い馬を先行させて騎士団まで行かせて」
「はい、おい!お前ら」
御者、ボブ爺が突然声を張る
「うっす!」
「野営地まで戻るぞ、警戒を厳に、あとセキト!お前は全速で野営地まで先に行って知らせて来い」
「うっす!」
「ぼ、ボブさん?」
突然気合いの入ったボブ爺にびっくりする
「はいはい、なんでしょう奥様」
「あ、いえ、こう、なんか慣れてるな、と・・・」
「はっはっはっ、なあに昔取った杵柄ですよ」
「何かやっていたの?」
「なに、少しだけ騎士団長を・・・」
ぶーーっ!騎士団長!?ヴィルヘルム様なんて方を御者にしているのよ!
「ボブ爺騎士団長だったの!?」
「昔の話です、さ、一先ず野営地まで戻りましょう」
「え、ええ、その騎士団長様に御者なんて、なんか・・・」
気が引けるなんてものじゃないわね!
「儂はこういうのんびり馬と過ごすのが向いてます、偶に訓練で剣を振ればそれで十分」
「そ、そうなの」
「ええ、では参りましょう」
「お、お願いします」
パカラパカラと引き返します・・・。




